終章:世界を見つけた魔法使い

そこは夜だというのに明るかった。

小さな焚き火があるからだ。

彼が念力でとある倉庫の鍵を開けるとワインが見つかり、アイたちにそれを見せるとアジトの中庭で小さな宴を開くことになった。無論、光は外に漏れないようにしている。

サキとサクラコはワインを見て大喜びし、彼が別の倉庫で見つけた焼き鳥の缶詰をあげると二人に抱きつかれた。今はマリアが飲みすぎだと注意している。


コマリとキョウコは缶詰のパンというものを賞味している最中だ。

他のグループに芋と鶏卵を交換してもらう予定なのでその卵とどんぐりの粉でラーメンを作ろうという話が聞こえる。何かの漫画の料理を再現するらしい。


テヅカは部屋で漫画の製作中だ。

「闇の魔法使い」の続きを描いている。

テヅカはビル炎上の話を後から知って申し訳なさそうにしたが、これでいいんだと彼は言った。お前が漫画を描くのがどれほど大変かを俺は知らない。お前にはお前の才能があり、世界があり、戦いがあると。そしてお前の勝利があると。


彼は強い眠気を感じた。

初めて飲んだワインのせいか、それとも。


(あれ?ひょっとしてこれって……)


その時が来たのでは。

もしそうなら嫌だなあと彼は思った。

怖いわけではない。

ずっと欲しかった「なにか」はもう手に入れたと思う。

でも、もう少しだけ皆と一緒に、と欲張ってしまう。

それでも彼の目は閉じてゆく。


彼の頭がぽんと何かで叩かれた。

目を開けるとアイが隣に座っていた。


「まだ寝ないで。どこを目指すか決めるんでしょ?」


彼女は丸めた地図帳を広げた。

騒ぎも落ち着き、文明を維持する地域を車で目指す計画を立てているのだ。

テヅカの実家近くは地熱発電所があるので候補の一つだ。


「そういえば……今思い出したけど、あんたって奴隷の人を助けに行く前に何か言いかけてたよね?『あんたは変わったね』って私が言った時に」

「ええと……ああ、あれか。俺が変わったって?違う。お前達が俺を変えたんだ」


彼は眠気をこらえて言った。


「アイもマリアもコマリもサキもキョウコもサクラコもテヅカも。あの赤ん坊も。皆が俺を変えてくれた」

「私はあんたが私達を変えてくれたと思う。どっちが本当だろうね?」

「どっちもだ。きっとこれが……」


彼は話を続けようとしたが意識が限界だった。


「なあ、人間いつ死ぬかわからないから言っておく」

「なに?」

「俺を助けてくれてありがとな」


彼女はきょとんとしたが、微笑んだ。


「お礼を言うのはこっちでしょ。酔ってる?」

「みんなもありがとな。本当にありがとう」


彼は皆を見たかったがまぶたを開ける力もなくなり、アイに寄りかかった。

最後に優しい母親のような声が聞こえた。


「おやすみなさい、アリー」

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最弱魔法使いのラストチャンス M.M.M @MHK

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