エピローグ

第85話 僕とボクの物語 ~Novel title Boku~ 

 少年は休息を取り

 少女は手術を受けた



 それから――

 幾度も雪が降り

 幾度も桜が咲き

 幾度も麦藁帽子を被り

 幾度も葉が紅くなり


 幾度も、季節と巡り合い



『ぼく』はいつしか――大人になっていた





『ぼく』はこうして生きていた





 ……でも


『ぼく』が生きていようがいまいが、世界は変わらなくて


『ぼく』が大人になろうがならまいが、世界は変わらなくて


 今もまた、季節は巡っている


 あの日感じた痛みは、他人には分からない

 あの日感じた悲しみは、他人には分からない

 あの日感じた喜びは、他人には分からない

 あの日感じた幸せは、他人には分からない


 全て、『ぼく』ともう一人の『ぼく』だけが分かったもの


 その話はただ単に――



『ぼく』ともう一人の『ぼく』の話



『ぼく』は痛みを味わった

『ぼく』は悲しみを味わった

『ぼく』は喜びを味わった

『ぼく』は幸せを味わった


 だけどそれは――ただ単にそれだけのこと


 世界から見れば『ぼく』はちっぽけで

『ぼく』の全ては、ないに等しい


 だけど――『ぼく』はこうして、生きている

 ちっぽけだけど、生きている


 教師として生きている


 こんな風に、物語はそれぞれにある

 一人一人に物語はある


 それは世界にとってはちっぽけかもしれない

 だけど、意味はある


『ぼく』の全てが世界にとってないに等しくても

『ぼく』はそこにいる

『ぼく』の物語には、意味がある

 みんなの物語も、意味がある


 一人一人の物語が積み重なって

 そして――この世界は出来ている


 だから

 意味のない物語なんて

 ない


 戦争で死んでしまう人も

 病気で死んでしまう人も

 事故で死んでしまう人も


 全ての人に、等しく物語がある


 物語は、生きていればどんどん作られる

 そう


 だから――『ぼく』の教え子たちも


 いずれ恋をするだろう

 様々な苦しみを味わうだろう

 様々な喜びを感じるだろう


 だけど、それらは全て

 その子達の物語で

 それぞれに意味を持っている


 そして一人一人

 違う物語を作り出してゆく


『ぼく』の物語は

 もうひとりの『ぼく』を愛した

 ただ、それだけのこと



 だけど

 その物語ではいいことばかりではなく

 むしろ、悪いことばかりだった

 愛したせいで傷付いたことも、たくさんあった


 だけど、ぼくは相手を愛することをやめることが出来なかった


 どれだけ傷つけ

 どれだけ傷つけられても

 愛することをやめることが、出来なかった


 様々な障害が『ぼく』の前に立ちはだかった


 だけど

 ぼくは全て乗り越えた


 諦めずに物語を作り続けて、乗り越えた



 だからその結果

 笑顔の『ぼく』が、そこにある



『ぼく』の傍には――いつも『ぼく』がいる



 そして

『ぼく』達は今日も、共に物語を作り続ける


 世界にとってはちっぽけだけど

『ぼく』達にとってはとても大きな――




『僕』と『ボク』の物語を






         Novel title Boku  完

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Novel title Boku 狼狽 騒 @urotasawage

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