第84話 僕とボク -14

   一四




 ボクは今、ぼーっとしている。

 いや、そんな感じがしているだけだった。

 麻酔をかけられたからだろう。

 今は、手術中なのだろうか?

 ……よく分からない。

 真っ暗で、音も何も聞こえない。

 だが。

 頭の中に響いて来る声がある。

 何故だろう。

 それが英時の声に聞こえるのは。

 ――いや、違う。

 間違いない。

 これは、英時の声だ。

 今は、はっきり聞こえる。

 ボクはその声に耳を傾けた。



「そこにある小説……『Novel title Boku』はな。君との幼い時に交わした約束のものなんだけど……君と出会ってからのことを、登場人物の名前を変えて書いただけなんだ」



 あの本はやっぱり、英時がボクに書いてくれた本なんだ。



「楽しかった日々を、書いたんだ。だから、それを思い出して笑ってほしかった。そして……君を想う人がいたことを、覚えてほしかった」



 うん。分かっている。

 覚えているよ。


「だが、中には僕の気持ちは明確には書いていない。最後のページで教えるつもりだった。だけどそこは――破り捨てた。もう、ない」



 どうして?

 どうしてそんなことしたの?

 君の気持ち、ボクは知りたいのに……



「だから、今、口で教える。この小説、内容じゃなくてもっと目立つところに君へのメッセージを書いていたんだよ。そう――題名に」



 ……題名?

 題名って『Novel title Boku』ってやつ?

 訳すと「小説の題名は『ぼく』」でしょ?

 でも、それのどこにあるの?



「そこにメッセージがあるんだ。僕の君へのメッセージがあるんだ。驚かそうと思って、隠していたんだ。だからさ……次から言う数字の順に並び替えてみて」



 ……分かった。



『1』


『2』


『6』


『5』


『7』


『13』


『4』


『11』


『14』


『8』


『9』


『12』


『3』


『10』



「……これで、全部だ」




 ……判ったよ。

 考える時間はたっぷりあったから、何度も頭の中で書いたよ。

 そして、頭の中で書いたら、判ったよ。

 君のメッセージも。

 ボクがずっと悩んでいた――答えも。



 君の――ボクへの気持ちも。



「さようなら。セリヌンティウス」



 ……ありがとう。メロス。

 こんな素敵な小説を……ありがとう。



 ――最初。

 これは、ボクの頭の中の妄想にすぎないと、最初は考えていた。

 でも、出来すぎていた。

 あの題名に隠されたその言葉は、咄嗟に考えつくものではない。

 だから、ボクは分かっていた。

 これは、妄想なんかじゃないと。

 英時は、伝えてくれた。

 あの時の続きを。

 ボクのことを『好きなんかじゃない』という言葉の続きを。



 Novel title Boku 

 この題名は一四文字。


 1 2 6 5 7 13 4 11 14 8 9 12 3 10

 英時が言ったのは、この一四個の数字。


 だから題名を、英時の言った数字通り入れ替える。

 すると、メッセージが浮かび上がってくる。


 そのメッセージとは――



 N 1  o2  v3  e4  l5  t6  i7  t8  l9  e10  B11  o12  k13  u14


           ↓


 N 1  o2   t6   l5  i7  k13   e4  B11   u14   t8   l9   o12  v3  e10



『Not like But love』





『好き』なんかじゃなく――『愛している』。

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