第2話
『お前は誰だ。神か、人か。それとも――』
昔、人と神は同じだった。そんな説がある。
それは人の傲慢だ。そう説いた輩も大勢いる。
何故なら、人と神が同じだったという証拠が一つも無いからだ。
しかしこう思う人もいる。彼らの頭ごなしに説を否定する姿勢こそ、見苦しいほどに傲慢ではないのか。
―――逆に、人と神が同じでなかったという証拠は、何処にあるのか?と。
――――――――――――――――――――
―――早朝、ホテル、ノアとリリーの部屋
「―――はっ!」
その日、ノアは悪夢でも見たかのように飛び起きた。
「…あれ?リリーは?」
時刻は朝5時。まだ起きるには少し早い時間だ。相当に健康的な生活を送っている人でもまだ起きていないだろう。しかしリリーは既にホテルを出ているようであった。
「随分早くに起きたな…散歩でもしてるのかな?」
早起きは三文の徳、と言うが、実際、実感した事はない。
だが、早起きが悪いと言う事は無いだろう。偶にする早起きで感じる朝日は心満意足だ。
ノアも散歩をする事にした。
―――市街地
早朝の現在、人は殆どいない。まるで人類が衰退したかのように。
そんな中でリリーを探すのは容易であった。
リリーは、公園で魔術の練習をしていた。
「はあっ!」
―――ノアは、目を疑った。
「………凄い……!」
さすがはA級魔術師、と言った所だろうか。
リリーが声を発すると共に、彼女の目の前に大きな魔法陣が描かれ、炎、氷、雷などの魔法が次々と放たれた。
その魔法弾は彼女が用意した訓練用の的に次々と当たり、遂に全弾命中した。
「…ふうっ、こんなもんかな…」
「リリー!凄いじゃないか!」
「あ、ノア!来てたの?」
リリーは訓練に夢中でノアに気付いてはいなかった。改めて、凄い集中力だとノアは実感させられる。
「うん。少し外を散歩しようと思って。そしたらリリーの凄い魔術を見かけたんだ」
凄い、とは何とも語彙力が皆無である感想だが、本当にリリーの魔術は『凄い』のだ。
「えへへ…見られてたんだ…まあ、これでも一応A級だからね!ふふん!」
「流石だよ。僕はC級だからな…」
「…そう言えば、ノアの魔術を私まだ見た事ないんだよね……うん。ねえ、ノアの魔術を見せてよ!今!ここで!」
そうなるのは、とても自然な事であった。リリーがノアの魔術を見たがるという事は。
「えっ…でもちょっと…恥ずかしいし…」
「いいじゃん!減るもんじゃないし!」
魔力は減るよな、とノアは心の中で思ったがそれは口には出さない事にした。それは下らない屁理屈なのだから。
「……はあ。分かったよ…ちょっとだけね」
「やったあ!」
「行くよ…はあ…!」
ノアが念じ、右手を前に突き出す。
すると、ノアの手の前に魔法陣が描かれ、
武器のような物が発言した。
「お、お、おお…!『
『
別名、『想像の魔術』。その名前の通り、想像力によって物質を具現化する魔術だ。殆どの魔術師は、これを武器に具現化する。それ故に武器を具現化する能力とも言われる。
しかし、この能力は完全に想像力に依存する物なので、具現化する度に武器の構造は変わってしまう、など扱いがとても難しい。この魔術を使用する事が出来るとしても、想像力が足りないため上手く扱う事が出来ない魔術師も多い。
「リリー、そこにある的、使ってもいい?」
「う、うん。いいよ」
「はあっ!」
一撃、一撃、また一撃。
と、ノアは的を次々と斬っていった。まるで風のように。
「凄い…凄いよノア!これ、A級並の強さだよ!ここまで『
「ふう…っと。ありがとう。リリー。でも…僕はあくまでC級なんだよ」
「なんで?」
少し、ノアの顔が暗くなった。話したくない事情があるのだろうか。
「…それは、僕がこの『
衝撃の事実。それはノアに取ってコンプレックスと言うべき物であった。
魔術師というものは、自分の得意魔術が一つある。言わば個性だ。そしてその他に得意魔術を上手く扱うための補助魔術や、攻撃魔術を習得する。
それがセオリー。
しかしノアには、その個性しかないのだ。
個性だけでは、この世界は生きていけない。
個性を上手く利用できなければ、社会から除外されてしまうのだ。
それでも何とかノアが魔術師の地位を保てているのは、『
「えっ…そんなの…聞いたことないよ…?一つしか魔術が使えない…?」
「…原因は分からないけど…多分、僕の才能が無いからだね。まあ、もう諦めてるからいいんだけどさ」
「…そっか。私にはどうしようもない事だけど、困った事があったら私になんでも言ってね。絶対助けるから!」
ノアの言葉に驚きつつも、リリーは笑顔を崩さずにそう答えた。
「そうだ!今日は任務もある事だしさ、このまま任務の時間まで模擬戦しない?ちゃんとした訓練場でさ!」
時刻は朝7時。任務まで14時間。
「え、疲れて任務出来なくならない?」
「いやいや、そこまでキツいのはやらないよ。そうだね、軽い運動程度で!任務を円滑にするために」
ノアは気まぐれだ。散歩をしたのも、リリーに魔術を見せたのも。
ならば今度も気まぐれを起こそう。
「…分かったよ。やろう」
――――――――――――――――――――
―――14時間後、
『えー、皆さん全員きっちりとお集まり下さって有難うございます。それではこれから、隣国バルバロの魔術組織、『マークル』迎撃のため、私たち『オール』総員、出撃開始です!』
「…よく言うぜ。時間になったら強制的に転移魔法で広場に集めさせたくせによ」
「ふふっ、いいじゃないか。それもまた美しい…」
「あ、バングさん!それにサンさんも!」
「おう!ノアじゃあねえか!今日は宜しくな!」
「おいおい、サンさんはやめてくれたまえ。美しくない。サンでいいよ」
「って…ノア。そう言えば一緒にいた女の子は?」
「リリーは先に行きました。僕は強襲部隊の中心に行って指揮を取るんです。良かったら、バングさん達も手伝ってくれませんか?」
「なんだ、そうなのか。了解だ。手伝うぜ」
「私の美しさで見事に部隊をまとめてみせる事を約束しよう」
どうやらサンは『美しい』が口癖らしい。現実にこんな事を言う人がいるのか、と思いながらも、ノアを出撃を始めた。
「前方、リリー班はとにかく前を警戒!後方、サン班は後続部隊と連絡を取りながら横を警戒!僕、ノア班は全方位警戒しながら移動!」
ノアは、指揮官としても有能であった。状況を客観的に分析する事に長けているのだ。
「いい采配じゃあねえか。俺の出る幕は無さそうだな」
「全くもって美しい…」
「いや、まだまだです。お二人は、この中でもかなりのお強さとお見受けしています」
「ふっ、ありがとうよ」
「君のその目には一片の狂いも無いよ…少し私の力も見せようか…『
サンがそう言うと、暗闇の中、魔法陣が光を放ちながら周囲の草木に3個現れた。
「あそこだ…敵がいる。直ちに処理をしてくれたまえ」
「おうよ!『
バングが持っているハンマーを地面に叩きつけると、なんとその衝撃が地面を伝わり、魔法陣に向かっていった。
「ぐっ!!」
「何だっ!?」
「ぐはあっ!!」
隠れていた魔術師達が次々と倒れていく。かなりの威力だ。
「おお…そのハンマーを直接食らったらヤバそうだ…」
「一丁上がり!」
「ふっ…美しい………ん?待て!」
サンの顔色が変わる。それはお世辞にも美しいとは言えなかった。
「なんだ?」
「反応が…増えた!いきなり現れたのだ!」
「嘘…だろ…?」
気が付くと、周りには敵が沢山いた。100、いや、500はいるだろうか。
「強襲部隊が強襲されちゃあざまぁねえな…とにかくやるしかねえ!」
「くっ…全部隊!迎撃準備!!!」
ノアが叫ぶ。その叫びは、戦いの始まりの合図となった。
その頃―――
「……ふっ。来たか。プリンシピオの魔術師達よ。精々私を楽しませてくれたまえ」
「アイン様!状況を報告します!奴らはどうやら部隊を組んできたようですが我らの暗闇の魔術により強襲に失敗、現在は我らの軍が優勢です!」
「そうか。どうだ、
「S級魔術師が3人います。あと…どうやらC級のようですが、かなり強い者が1人…」
「ほう、それはいい…少しそいつに興味が湧いたな…」
所変わって、ノア側―――
「はあっ!」
ノアは西洋の長剣を具現化し、次々と敵をなぎ倒していた。
「おいノア!このままじゃあ押し切られるぞ!」
「ノア!私の美しい魔術を持ってしても厳しいようだ!」
八方塞がり。とはこの事だ。1人1人はそこまで強いという事は無い。しかし数が多すぎる。
想像の倍、そのくらいはいる。
ノアには作戦を考える余裕も無かった。
「ああ!!もう!!多すぎるよ!!!!」
斬っても斬っても減らない敵。
その状況に苦難していた。その時―――
「『
炎、氷、雷。三つの魔法弾が放たれる。
これは―――
「リリー!来てくれたのか!」
「うん。私の所はもう片付けたよ!」
「私も助力しよう」
冷徹な闇を連れてくる男―――
「ダースさんまで!」
「あれえ〜ここ、敵多い!僕の獲物がた〜っくさんで嬉しいなぁ!」
陽気な見た目、残忍な性格―――
「マルテルさん!あなたも!どうして…?皆自分の戦場で手一杯なはずじゃ…?」
「いや、俺たちの所はもう終わった。どうやらここが集中的に狙われているようだ」
「集中的…何故…?」
ノアは考える。だが、分かるはずがない。敵の考えている事など。敵が多いのなら。倒して減らすのみなのだ。
「考えていても仕方が無い。やるぞノア!」
「はい、ダースさん!行くよ!リリー!皆がいれば百人力だ!」
最高の援軍。そう呼ぶしか無かった。
元々ノアは相当な数を倒していたが、
S級が2人も助力してくれている。その安心感。そして、純粋に強い。さっきまでの10倍は早く減っているだろうか。
「いける!いけるぞ!みんな!」
「『
ダースが放った闇に飲まれた者は全てを見失う。即ち、五感を全て奪われる。
そして動きを封じた所を―――
「『
「『
マルテルの太陽にも匹敵するほどの炎熱、
リリーの5属性魔術で倒していく。
完璧のコンビネーションだ。
「おし、あと100人もいない!もう少しだ!」
全員が、勝利を確信した頃―――そいつはやって来た。
「素晴らしいよ。君たち」
「「「!!!」」」
圧倒的な魔力。その男は、それを持っていた。この場にいる全員が震えるほど。
「特に君。C級くんだよ」
「…やれやれ…なんて奴だ…美しい私が勝てるビジョンが浮かばないよ…」
「こんな奴がまだいたとは…」
「いいや、それだけじゃない。これだけの魔力を持ちながら、それを完璧に隠していた事。それが出来るほどの圧倒的な実力、という事だ」
「あ、君たちには興味無いよ。まあ、S級くんなら少しは歯が立つかもしれないけど…無駄な殺生はこちらも避けたいのでね」
どうやら男は、ノアにしか興味が無いようだ。もしこの男が本気でノア達を倒しに来たらどんなに恐ろしい事だろう。
「……何故僕だけに?」
「ん、決まってるじゃないか。強そうだからだよ。私は強い奴が大好きなんだよ。ああ、そうだ。まだ私の自己紹介をしていなかったね。私はアイン。自他ともに認める戦闘狂だよ」
戦闘狂。まさにそう言うべき怪物。そしてその怪物は、静かにノアへと歩み寄り―――
「さあ、始めよう。私達の奏でる戦闘を」
ドガンッッ!とそれはまるで戦闘開始の合図のように鳴った。
ノアの武器とアインの腕がぶつかった音だ。
「…!?腕で…僕の武器を!?」
「いい魔術だ。『
「お喋りとは随分余裕ですねっ!!はあっ!」
一閃。ノアがアインを斬る―――
「と。思ったかい?」
1ミリも。傷ついていない。
アインの皮膚はまるでダイヤのように堅く、
まるで切れそうにないのだ。
「な、なん…だって…」
「…まだいけるよね?」
今度は自分の番、とでも言いたげな顔と共に、アインはノアに突撃し、拳を浴びせた。
「がっ…はあっ!」
「おい!ノア!大丈夫か!!」
「うぐっ…はあっ…はあ…」
圧倒的。まるで歯が立たない。
ライオンと子犬が戦っているようなものだ。
それほどの実力差。既に勝敗が分かりきっている戦いだ。
「……何だか白けちゃったな…もういいや、君。やっぱり私には勝てないんだね。―――じゃあ、次の人、かかってきていいよ」
アインはそう言うが、勝負を挑む者はいない。いる訳が無いのだ。これほどの怪物を相手に挑む勇者、言わば命知らずは。
「…はあ…本当に白ける……じゃ、全員殺してから帰ろうかな…?」
「!!……ダメだ…もう…勝てる訳が……」
その場の全員が諦めかけた―――その時
「諦め………るなッ!」
再び立ち上がったのは、ノア・アルバート。
『黄金』の魔術師。
「僕は負けない!こんな奴に!!」
ノアが命を振り絞り、最後の一撃をアインに食らわせる―――かに見えた。が―――
「……あれ?その私を睨む顔……何だか見覚えが…君、もしかしてガイアの―――」
「!?」
「そうだよ!アルバート!ガイア・アルバート!その息子!道理で君に惹かれた訳だ!」
「父さんを……知ってるのか…?」
「ガイア?ガイアって、あのガイアか?」
最も驚いたのは、外野の魔術師達。
「10年前に失踪した、元最強の魔術師、S級ガイア!ノアが、そいつの息子だって言うのか!?」
「何で…僕が父さんの息子だと…?その事は一部の魔術師にしか知られていないはず…」
「ふっ。それは教えない。私とガイアの関係は秘密だよ…成程、ガイアの息子か…なら、更に殺したくなった!」
1歩ずつ。アインは歩みを進める。その歩みは大地を揺らすほど重く響いた。
「ぐっ!」
ノアは再び倒れる。最後の力が、尽きてしまった。
「ふっ。さようなら。ガイアの息子、ノアよ―――」
アインが手を突き出した、その瞬間―――
「やめて!ノアを傷付けないで!!」
リリーがアインの目の前に立ちはだかった。
「や…めるん…だ!リリー!君じゃあ…アインには…」
「ううん。ノア。私、言ったじゃん、困った時はいつでも言ってって。ノアは今困ってるよね?なら私が助けるよ!」
そう豪語するリリーは震えていた。それほどの恐怖を前に、彼女は盾となるのだ。自らの友のために。
「素晴らしい…その友情…それに免じて、ノアを殺すのはやめよう。代わりに君が『犠牲』になるんだよ」
「覚悟は出来てるわ!でもこれだけは約束して!私を殺したら、ノアは勿論、他の人にも手を出さないで!!」
「ほう…いい『覚悟』だ。分かった。約束しよう。では、裁きを与える…」
「リリー駄目だ!!そこを…退くんだ!!」
自分が動けない事を嘆きながらも、ノアは力を振り絞り声を出す。
「ノア…過ごした時間は短かったけど…まあ、なんと言うか…凄く楽しかったわ…!」
満天の笑顔と共に放たれたそれは―――まるで、最後の言葉。ノアにとって、それは心を打ち砕くには十分な物であった。
「さあ…行くぞ…『
そして―――リリーという人間が、この世から消えて無くなった―――
「殺してはいない……ただ、彼女は結晶となった。私自身にも、その解除法は分からないよ。―――いつか、ノア。ガイアの息子よ。君がその子の結晶化を解いてやるがいい」
アインが戦場を去ろうとした、その時―――
「そ、そんな……そんなァ…がァ…ッ!がァァァァ!!!!!」
ノアに異変が起きた。
「……何だ?―――この魔力は」
莫大な魔力。それはノアから感じられる。
「アイ……ン……ゆる………さない……」
瞬間―――立ち上がれないほどの重傷を負っていたノアが、立ち上がった。
そして、彼の左目に、何やら時計のような物が浮かび上がっていた。
そして彼は巨大な魔法陣を発生させ、武器を取り出した。
それは大剣。デザインはまるで、神の持つ武具のようだった。
「これは………『神器』!!!何故彼の手に……!」
アインの顔に困惑が現れた。今までどんなに攻撃をしても動揺しなかったというのに。
「ごちゃごちゃうるさい………お前は倒す!!!」
武器を取り出したノアは一瞬でアインとの距離を詰め、薙ぎ払い、斬撃を浴びせた。
「くっ!この強さは……間違いない!
アインは雨のように降り注ぐ斬撃で体制を崩したが、また余裕の表情に戻る。
「未熟…!圧倒的に。出直すがいい…ガイアの息子…いや、『神器使い』よ!」
アインは、ノアの斬撃をなぎ払い、1発、強烈な一撃をノアに食らわせた。
「がはっっっ!!」
ノアは吹っ飛び、地面に倒れ込んだ。
「ふう…彼女との約束通り手は出したくなかったんだが…これは正当防衛という事にしておいてくれ。では諸君。いつか、また会う時まで―――」
そして、アインは闇へと去っていた―――
―――翌日、中央機関病室
「ん……」
目覚めると、白い天井があった。
「お、起きたか、ノア」
「……バング?…ここは…病室か」
「お前さん、二日も寝てたんだぜ」
「二日も……って!そういえばリリーは!?あの後サムルは何処に行ったんだ!?皆無事なのか!?」
「おいおい…質問は一つずつにしてくれ。サムルはあの後俺たちに手を出さずに帰った。皆無事だよ。それで……お嬢ちゃんは…」
「この通りさ。全く、美しくない」
「サン………」
サンが持って来たものは、何やらクリスタルのような見た目をした物だった。しかし、その輝きは澱んでいた。
「リリー!リリー!どうしてッ!こんな姿に………!!」
「―――何やら強力な『呪い』がかかっているようだわ」
「マリーナさん!リリーは、元に戻れるんですか!?」
「落ち着きなさい。私には判断が難しいけれど…普通の魔法ではないようね。もっと強力な物だわ…」
「そんな……」
絶望。としか言い様が無い。ノアの目に、光は無かった。
「………なあ、ノア。お前さんは、よく頑張った。俺たちを救ってくれたじゃあねえか。お前さん、めちゃくちゃ強くて、かっこよかったぜ。あの魔術師ガイアの息子なんだってな」
「……あまり、その事は他言しないでくれると、嬉しいんだけど…」
「ああ、勿論だ。ここにいるヤツら以外には、誰も言わねえよ」
「君の美しい強さの所以は、その男からだったのか…」
「あなたは強いわ。頑張った。あまり気を落とさないで」
「どんなに強くたって………!友達一人も助けられない俺は………!何なんだよッ!初めて会った時、僕、嬉しかったんだ!友達ができて……一緒にトレーニングもした!戦った!なのに………酷いよ………神様…………僕は…自分の無力さが……心底憎い…」
涙が、自然と零れ落ちる。悲しみと憎しみの連鎖が、ノアを襲った。
「俺も…お前さんたちと出会って日は経ってないが…あんなにいい子がいなくなって、悲しいぜ……」
「バング。泣くな。美しく…ないだろう…」
「こればっかりは…私でもどうしようも無いわね…」
その場全員が悲しみに打ちひしがれていた、その時―――
「まだ、諦めてもらっては困るぞ、ノア」
「ダースさん!?」
「グラナダ。あそこに行けばまだ可能性はある」
「グラナダ……そうか!あの町なら…!」
「え……その…グラナダって言うのは…?」
「別名『書の町』。美しい魔導書の宝庫さ」
「…確かにあそこなら、お嬢ちゃんを助けられる方法が見つかるかもしれねえ…」
「ここから北の方向だ。私たちは病人の手当もあるし、お前と行動を共にすることは出来ない。一人で行く事になるが―――それでも行くか?」
「―――!」
ノアに、判断の余地は無かった。
「行きます。今度は僕が、リリーを助けるために―――」
プリンシピオを襲った組織、バルバロの『アイン』。彼に結晶にされたリリー。
そして、最強の魔術師ガイアの息子、ノア。
これから、また新しい冒険が、始まる―――
気まぐれ神器使いと魔術大戦 そへ @sohe
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