気まぐれ神器使いと魔術大戦

そへ

第1話

それは昔―――今から何千年も前、

ある5人の賢者がいた。


賢者たちは皆仲が良く、いつも一緒に暮らしていた。


しかしある時、賢者たちはある秘宝を見つけた。それらはどれも素晴らしく、皆独り占めをしたいと思った。


―――そして、彼らは争いを始めた。

その波は世界へと広がり、やがて5つの勢力を形成した。


その勢力はやがて国家となり、世界は5つに分裂したのであった―――


第1話:『C級魔術師』


とある冬。列車にて。一人の少年がいた。


「ふあ〜あ。眠い…」


この少年の名前はノア・アルバート。黒髪で、左目の下に傷を持つ。

『黄金』の異名を持つC級魔術師だ。


「はあ…なんで僕が中央機関セントラルに集合されるんだろ…」


中央機関。それはここ、魔術国家プリンシピオの全ての魔術師が属する機関。言わば政府のようなものである。

普段ならノアの様なC級魔術師は、よほどの緊急事態でない限り呼ばれることは無い。


「あんた、魔術師かい?」


ノアが文句を言っていると、何やら中年のおじさんが隣の席から話しかけてきた。


「はい。そうですよ。中央機関に行く予定です」


「はあ〜!すげえなその紋章!一度着てみたいもんだねぇ」


「いえ。僕はC級魔術師なので全然凄くはないですよ。まだまだ下級です」


「いやいや、C級でも俺たち一般人からしたら充分雲の上の存在のようなもんよ!あんた、これからも頑張れよ!応援してるからな!」


そう言うと、おじさんは席を立ち、去った。


しかし、おじさんは去り際に何か呟いたような気がした。


「……これが『黄金』か。取るに足らんな」


「…?あのおじさんは一体何だったんだろう…」


少し奇妙であったが、すぐにその事はノアの思考の外へと追いやられた。


そして、ノアの目的地、中央機関がある街、ローウェンに着いた。


「やっと着いた〜!やっぱり列車は窮屈で疲れるなぁ…」


自由奔放な性格、ノアは窮屈な列車は苦手であった。酔う訳ではないが、何となく雰囲気が嫌らしい。


「…ノア様ですね?私、中央機関の職員でございます。中央機関へとお連れします」


すると、中央機関の職員が話しかけてきた。どうやら列車でやって来た魔術師の案内役らしい。


「ああ、職員さん。ご苦労様です。中央機関に直接来るのは初めてなので有難いです」


そして、職員の案内によりノアは無事中央機関に着いた。


「おお…ここが中央機関…大きい…」


「こちらの会議室でお待ちください」


「あ、はい。どうもありがとうございます」


ノアが会議室の扉を開けると―――そこには沢山の魔術師がいた。


「え…待って、全然空きがないんだけど…」


総勢200人程いるだろうか。既に9割は埋め尽くされていた。


「う〜ん。あ、空きがあった!」


その席は一番前、ど真ん中であった。普段ならそんな所に座る勇気の無いノアではあるが、背に腹は変えられなかった。


「えと…すいません、ここ、いいですか?」


隣の席の人に一応断る。知らない人の隣というのは少し落ち着かないが。


「あ、全然いいですよ」


この時隣に座っていた、その人物が、ノアの人生に深く関わってくる人物であるのは、言うまでもないだろう。


(…この人、凄く可愛いな…)


隣の席に座っていたのは、眩しいくらいに美しいセミロングの黒髪少女であった。


「ねえねえ、キミ。名前はなんて言うの?私はリリー。リリー・シュバルツ、17歳よ」


「よろしく、リリー。僕はノア・アルバート。ノアって呼んでください。僕も17歳です」


「敬語はやめて、私たち、もう友達でしょ?」


初対面の人間にここまで言える女性を、ノアは今まで見た事が無かった。それ故に、ノアは新鮮に感じていた。


「はは…癖で初対面の人には敬語使っちゃうんだよね…ごめん」


「謝らなくても良いよ。しょうがないもん。それで、あなたは何級?」


「…C級かな」


「え、そうなの?なんだかもっと強い感じがしたけど…ちなみに私はA級」


「え!凄…同い年なのに…」


同年代の女性に負けているようじゃとてもカッコがつかないな、とノアは心の中で恥ずかしく思った。


『えー。ではこれから緊急会議を始めます』


「おっ、始まったみたいだね」


『今、ここには総勢204名の魔術師がいます。S級2人、A級50人、B級150人、そして私、中央機関長官、アーベル・ナハトです』


「おい、一人たりなくねえか?」


「あと一人誰だ?」


周りがざわつき始める。そう。ノアがカウントされていないのだ。


『あ、すいません。C級が一人いました』


「C級…?」


「なんでそんな奴がここに来てるんだ…?」


「おいおい大丈夫なのかよ…」


「ギクッ」


「…ノアの事だね。ぷぷっ」


「ちょ、リリー笑わないでよ!」


『…では説明を続けます。今回、皆さんを招集した理由ですが…先日、隣国バルバロの魔術組織、『マークル』が、我がプリンシピオ国に攻撃を仕掛けて来ました。これは到底許されるべき行為ではありません。が、マークルはかなり大きい組織。そこで我が国は特別部隊を組み、マークルを迎撃する事にしました。その名も『オール』。つまりは、皆さんです』


「マークル…聞いたことない…」


「えっ、ノア聞いたことないの!?バルバロ最大の魔術組織だよ!悪い噂ばかりしか聞かないけど…」


『迎撃予定日は明日の夜9時です。そして今日は作戦を決めます。まずは部隊長を決めます。部隊長は各自必要な団員を集めてください。まず支援部隊長、A級、『白杖はくじょう』のマリーナ!』


「はあい!マリーナよ!皆さん頑張りましょ〜」


「ヒューヒュー!いいぞマリーナ!万物を再生する白魔法の使い手!」


「俺マリーナさんの部隊に入ろ!」


『続いて、後衛部隊長、S級『冷徹』のダース!』


「…宜しく頼む」


「おお…あれが噂に名高い冷徹…闇魔法においてあいつの右に出る者はいないと言う…」


「かっけえ…俺あいつの部隊にしよ…」


『そして前衛、S級、『陽気』のマルテル!』


「はーい!皆よろしくっス!」


「その見た目とは裏腹に残虐な魔術を使うという…あのマルテルか」


「マルテル兄貴!俺は兄貴の部隊に入りまっせ!」


『そして…強襲部隊、C級、『黄金』のノア!』


しーん。音ではないが、確かにそんな音が鳴った。


「なぜC級が部隊長に…?」


「おいおい、誰だよ…ふざけるんじゃねえぞ…」


『上からの命令です。ノア・アルバート!いますか!』


「は、はい!えっと、僕です…」


何故自分が選ばれたのだろうか。そう困惑したまま、ノアは返事をした。


「なんだナヨナヨしたガキじゃねえか…」


「キャー!イケメン!私あの子の部隊に入るわ!」


「…面白い。俺はあいつの部隊に行くぜ」


「ノア!凄いじゃん!」


「は、はは…」


そして会議も終わり―――


「はあ…何で僕が部隊長に…」


そう落ち込んでいるノアに、リリーが話しかけてきた。


「ノア!私さ、ノアの部隊に入る!何だか面白そう!」


「本当?リリーがいてくれるなら助かるよ」


「ねえねえノアくん、私たちも入るわ!」


女集団が一気にノアに押し寄せてきた。


「わっわっ!押さないで!」


「むー。ノアったら女の子をたぶらかして…」


「待って!不可抗力だから!」


無実の罪を着せられたが、今はそれどころではない。


「おい女共!男目当てに部隊をそう易易と決めるんじゃねえ!ここは強襲部隊だぞ!」


女集団がノアを揉みくちゃにしていると、大男が一括をし、女たちは一斉に逃げ出した。


「すまねえな、俺はバング。お前さん、C級だってな。だが部隊長に選ばれたのには何か理由があるんだろう。俺は人を階級で判断はしねえんだ。宜しくな」


「あっ、ありがとうございます!」


「ついでに私も、キミの部隊に入れてくれるかな?私はサンだ。宜しく頼む」


今度は細身のイケメン。


意外とすぐに部隊は集まり、総勢30人程となった。


「ねえノア!今日さ、宿あるの?」


部隊解散後、ノアは何となくリリーと行動を共にしていた。彼女もまたパートナーがいなかったらしい。


「え、ローウェンに着いてすぐ中央機関に来たから、まだ取ってないけど…」


「やっぱり…この街ってさ、プリンシピオ最大の都市だからやっぱり人が多いわけ。で、宿とかもすぐ埋まっちゃうんだよ。多分もう空きはないかな?」


「え!!嘘!…はあ…やらかしたぁ〜」


しかし次にリリーが発した言葉は、ノアの予想を超えるものだった。


「ふっふ〜ん、実は私、二人部屋取ってるんだよね〜ノア、一緒に泊まろ!」


「!!」


(なんて事だ…!まさか女子からこんなお誘いが来るなんて…!)


ノアには女子耐性が無かった。しかもそれがリリーのような美人なのだから、尚更意識してしまう。


「あ、あ、ありがと…う」


「どうしたの?ノア、顔赤いよ?」


純真無垢なリリーには、気づかれていないようだった。


そしてホテルに到着―――


「はあ〜疲れた!ローウェン広すぎ!」


「確かに…中央機関だけでかなり歩いたしね…」


「汗かいちゃった。私シャワー浴びてくるね!…覗いちゃダメだよ?」


「いや覗かないよ!」


その時ノアの心に、悪魔が芽生えた。


(覗いちゃえよ…)


そう。エロの悪魔である。


(誰だお前は!?)


(俺はお前の悪の心さ…覗いちゃダメって言うってことは、覗けって事なんだよ!)


(嘘だ!俺はそんな汚れた事はしない!断じて!)


(強情な奴だ…リリーのスタイルは極上だぜ…ここで覗かないなら男の恥ってもんだ)


女性というものをこれまで殆ど目にする事が無かったノア。年も年なので、女性に興味を持つというのも、仕方の無い事である。


(悪魔め…!僕がそんな誘惑に乗るとでも!?)


(いいやお前はいつか必ず、リリーの裸を見る…!断言するぜ!)


(くっ…だが僕は負けない!僕の貞操の為に!僕が、僕が貞操を守らないで、誰が守るんだーーーーーっ!)


「あーさっぱりしたっ。―――って、ノア何してるの?お風呂入りなよ」


ノアが覗くか否かでのたうち回っていると、先にリリーが風呂から出てきてしまった。


「あ…リリー。うん。入るよ。」


そしてノアも風呂に入った。

しかしその浴槽のお湯は、リリーが入った後である。


当然ノアが気にしないわけはなく、また一悶着あった。(悪魔との会話は省く)


「あ〜、気持ちよかった」


「ふふっ、何だかノアおじさんみたい」


「失礼な!まだまだ若いよ!」


(しかし、今日出会ったばかりの少女とひとつ屋根の下で寝る事になろうとは…人生何が起こるかわからないものだなぁ)


「はあー。今日出会ったばかりの男の子とひとつ屋根の下で過ごす事になるなんて、人生何が起こるかわからないね」


「!?」


「ん、どうしたの?」


全く同じ事を考えていた。思考回路が似ているのだろうか。しかしノアは驚きつつも、リリーに対しある感情が芽生えてきた。


それはまだ何かはノアにはわかっていない。

でも、それはきっと素晴らしいものだと、確信をしていた。


「さ、今日は疲れたしもう寝よ〜。ノア、おやすみ」


「うん。おやすみ―――」


消灯後


(今日は何だか波乱万丈だったな…中央機関に行くわ、部隊長に選ばれるわ、そしてリリーと一緒に泊まる事になるわ…本当に疲れた。)


(…でも今日はいい日だ。色々とまだ不安はあるけど、明日は部隊長頑張ろう…)


(…あ、それにしてもなんで僕は部隊長に選ばれたんだろう…そんなに強くないのに…って、もしかして、かな?…でもアレを知っている人はそう多くないはず…まあいいや、今日は寝よう…)


謎多き少年、ノア。彼は秘密を隠している。その秘密とは如何なるものであろうか―――

そしてノアに近づく少女、リリーとの波乱万丈な冒険が、これから始まる―――

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