第406話 7月25日(日)高校生クイズキング選手権北海道予選~第4ステージ(ファイナルステージ)④

 僕はこの答えを知っている。毎年のようにジャガイモを庭で栽培しているし、この品種も育てた事があるからだ。

 この答えは「春になり、デンプンが糖に変わると油で揚げた時に黒く焦げるから、保存してもデンプンが糖に変わりにくい『トヨシロ』を使う」となる。僕は素早く答えを書き込むと、再び美紀が奪い取るようにして立ち上がり、その用紙を店員さんに渡した。今度も店員さんは『〇』の札を上げたので、美紀はさらにその横の店に行き、今度は紙袋を持って戻ってきた。

『さあ、札幌時計台高校、ついにリーチが掛かりました。兄と同じく弟も本選に進めるのかあ!?あー!室蘭大川高校、またしても「はずれ」だあ!』

 紙袋に入っていたのは親子丼のミニサイズだ。

(・・・親子丼というと玉子と鶏肉の両方使っているから、範囲は広いぞ・・・それに、もしかしたら、お米に関する問題かもしれない。それとも、鶏に関する問題なのか、味付けに関する事なのか・・・それにしても漠然とし過ぎているから読めないぞ)

『さあ、札幌星光高校、再び旗が上がった。今度はどうだ・・・よし、「はずれ」ではないぞ』

 僕は親子丼を食べ終わった。美紀は既に食べ終わっている。

『おーっと、ここで札幌時計台高校の旗が上がったあ。さあ、問題はどうなっている・・・「はずれ」ではないぞ!これで決まるのか!?ここで函館ラムサール高校もリーチが掛かったぞ!』

(問題。札幌ドームは開設時に愛称がつけられたが、この愛称を答えよ)

「「!!!!!」」

 ここでスペシャル問題かよ!?

 当然、美紀は首を左右に振っている。

 でも・・・僕はこの答えを知っている!この答えはアルファベット6文字で「Hiroba(ひろば)」だ。この愛称が使われる事は殆どないので、まさにトリビア問題だ!。

 僕は素早くこの答えを書き、美紀が用紙を奪い取るようにして立ち上がった。これで僕たちの代表は決定だあ!兄さんと同じく東京の本選に進むのは僕たちだ!!

 だが・・・

『決まったあ!札幌星光高校、スペシャル問題を見事に正解して大逆転で優勝だあ!』

 この瞬間、僕たちを含めた他の六人が一瞬だけ動きを止めた。そして、六人は歓喜する二人の女の子を見た・・・。



 僕と美紀のペアは、第4ステージの終了した時点の結果から、補欠扱いとなった。もし札幌星光高校が出場辞退したら繰り上がり出場できる権利が与えられたが、その連絡期限は7月31日の正午だ。8月1日に東京で本選の1回戦が行われるので、繰り上がり出場となった場合は、31日の正午までに番組から学校へ連絡が入る事になっているが、この理由は、いわゆるいたずら電話対策だ。この時までに学校経由で僕に連絡がなかった場合、札幌星光高校がそのまま北海道代表として本選に進むという事だ。

 僕は、いや、僕と美紀は時間にしてわずか5秒位の差で代表の座を逃した事になるのだが、これは美紀のせいではない。全て僕のせいだ。

「幸運の女神は根性を示した者に降臨する」というキャッチフレーズのとおりだとすれば、僕は今日の予選で一度たりとも根性を示せなかった。だから、最後の最後で、幸運の女神は僕を見捨てたんだ・・・最後の瞬間、僕は自分がミスをした事に気付き、茫然とした。そして、その後、年甲斐もなく泣いた・・・美紀の方が僕よりもしっかりしていて、泣いている僕の肩をポンポンと叩いていた。

 僕は札幌星光高校の二人の女子と握手をしたのは覚えているが、その前後の事はほとんど覚えていない。気付いた時には地下鉄東豊線の車内だった。僕の右にはクリス先輩、左には実姫先輩が座っていて、姉さんは僕の正面に立っていた。でも、いつもの姉さんと違って、隣に実姫先輩やクリス先輩が座っていても怒るような事はしなかった。そして、誰も喋る事はしないで、ただ静かに乗っていた。

 兄さんと真姫さんは夕方に一度家に立ち寄り、15分位滞在した後、東京へ帰って行った。次に兄さんたちに会うのは10月だ。

 今の時刻は午後9時を少し過ぎたところだ。

 僕は机の上に座って、ボーっとしている。正直、何もやる気がしない。

 美紀は先ほど、僕の部屋に来て「記念品だ」と言って、写真立てを置いて行った。そこに入っていたのは写真ではなく、今日の第2ステージで美紀が引き当てた、あの特別仕様のゴリゴリ君のあたり棒だ。実は、美紀は2本の「あたり」棒を第3ステージが始まる前に姉さんに渡していたのだ。この2本のうち、1本は自分の部屋に飾り、もう1本を僕の部屋に持ってきたのだ。

 ようするに「この棒を見て、来年こそは代表になれるよう、一層の努力をしろ」とでも言いたかったのだろう。

 たしかに、僕は兄さんのように高校生クイズキング選手権の北海道代表になれなかった。でも、まだ来年もある。今年駄目だったからといって、諦めたら全て終わってしまう。また頑張ればいいのだ。多分、美紀はそう言いたかったのだと思う。

「・・・来年、か・・・」


 そして、7月31日の正午までに、僕へ繰り上がり出場の事を伝える電話が来ることはなかった・・・。

 こうして、僕の夏の夢は終わった。



                            第一部  完


 




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僕は普通の高校生活を送りたかったのにMIKIが引っ掻き回して困っています 黒猫ポチ @kuroneko-pochi

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