第4話 通勤・通学時間帯の混雑は異世界も同じ
『おはようございます。お手持ちのお荷物は網棚に置くなど、周りのご迷惑にならないようご協力をお願します』
まだこの時間・・朝の6時ちょっと前ですが、お客様の乗り降りはそれほど多くないので余裕をもって車内アナウンスが出来ますね。
基本、車内でのマナーは現実世界と共通にさせてもらっています。昔は
というのも、割り込み乗車や車内でのケンカ、座席の占有といった迷惑行為が横行してしまったそうなのですが、これは
当然、それではか弱き住人は利用できなくなってしまい、それは公共交通機関の理念に反します。
なので、当時の乗務員たちはなんとか現実世界の車内マナーを徹底させようと相当な努力をしたそうです。同時に、この世界の国王にも訴え出て、国中に車内マナーを周知してもらったとか。
それらが功を奏し、今では車内のみ現実世界並みの平和が保たれているのです。
車内にはすでにトカゲイルさんの他、三角帽子に黒地のローブを纏った小学生くらいの女の子、お揃いの青い鎧に剣・・ではなく木刀を差した高校生くらいの男子の集団、緑色のコートに黒いパンツ(下着ではありませんよ)を履き、赤縁の眼鏡をかけた猫耳の若い女性が乗車されています。
みな、まだ早朝ですのでこくりこくりと微睡んでらっしゃいますね。こうして目的の停留所まで寝ていられるのも、座席に座れた人の特権ですね。
『ご乗車ありがとうございます。次は、【ヘルセウス地区北口】です』
さあ、いよいよヘルセウス地区北口です。ここは人口密集地区ですので乗車するお客様も大変多いのです。この停留所でバスが満員状態になるのもそう珍しくありません。
『お待たせしました。このバスはソリアス発着所発、ヘルセウス地区北口経由、トルストック城前行きです。お乗りの方は奥より詰めてご乗車ください』
通勤や通学でバスをご利用になられた方はお分かりかも知れませんが、混雑時の車内というのはものすごい圧迫感がありますよね。現実世界では、ごく一部のお客様を除き場所を詰めて乗って下さるお客様が多いのですが、ここは先ほど説明した通り異世界ですので、特有の事情があったりします。
車内マナーはだいぶ周知されてるのでそんなに問題はないのですが、なんといいますか。
例えば、アニメイベントやなんかでコスプレしてる人たちがいるでしょう?(レイヤーさんって言うんでしたっけ?)。
その人たちが私服に着替えずにバスに乗り込んできたとしたら、どう思います?
手ぶらならともかく、剣やら杖やら分厚い本やら、そんなものを手に持ちながら乗ってきたら。
邪魔くさいなんてものではありませんよ。どんな名剣かは存じませんが、ぱっと見勇者っぽい男性が持つ大きな剣の柄が横に立つ僧侶っぽい気の強そうな女性の肩に当たっていて、女性の目つきが険しくなりつつあります。
過去に国の存亡を賭けた大きな戦いに参加してそうな目つきの鋭いご老人の持つ杖が長すぎて、隣に立つ赤色の魔法の法衣を来たショートの女性が掴むつり革に微妙に触れていて、見ているこっちがハラハラします。
現実世界では、車内に危険物を持ち込んではいけないと法律で決まってるので乗車拒否が出来るのですが、あいにくここは異世界。
法律を持ち込んではお客様がいなくなってしまいます。過去に車内の網棚に置いてもらう、という案もありましたが、網棚の幅が狭い事と混雑時は他のお客様のご迷惑になるという事で見送りとなった経緯があります。
なので今はこちらからは特に言いません。私にできる事と言えば、
『お手持ちの荷物が周りのお客様に当たらないよう、ご注意下さい』
というアナウンスのみです。
異世界自主運行バス たけざわ かつや @Takezawa
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