第3話 乗務員:杉田雄二
みなさん初めまして。
私は当バスを運行する乗務員の杉田雄二です。
本日のご乗車、誠にありがとうございます。
さて、ただいま乗車してきたお客様、確か【大トカゲ人間】という表現がされていましたが、大変失礼いたしました。彼はこの世界では【
「あぁ、おはようございますトガゲイルさん。チャージですね」
「久しぶりだねスギタさん。前に会ったのがまだ暑い日だったから・・」
「たぶん3か月ぶりですよ。あ、幾ら分チャージします?」
「これだけで頼むわ」
トカゲイルさんが私に手渡してきたのは日本銀行券の5千円札です。
驚かれましたか?一応念のため言っておくと、この世界では日本の貨幣は流通しておりません。この世界にはこの世界独自の貨幣があります。では何故トカゲイルさんが5千円札を持っているのかというと、このバスで日本銀行券とこの世界の貨幣を両替しているからです。
私もこの世界の貨幣価値は分かりませんが、バスに備え付けの【両替表】を見て両替を行っているのです。
貨幣価値は誰が決めているかって?さあ、私には分かりませんが、かなり昔にわが社の上層部とこの世界の国王とが交渉して決まったという噂ですが、定かではありません。
「トカゲイルさん、これ5千円札ですけど全額チャージでよろしいんですか?」
「あぁ、全額でいいよ。ちまちまチャージするのもめんどくさいから」
「わかりました」
さぁ、これから5千円のチャージですが、せっかくですのでトカゲイルさんと一緒にみなさんにも手順を説明しましょうか。
みなさんご存知の運賃箱には、運転席側に【操作盤】というパネルがついています。そのパネルで私たちはお客様によって【子供割引】だとか、整理券の取り忘れた際の処理等を行っておりますが、今回はチャージという事でパネルの【
ここで注意していただきたいのは、チャージに慣れてるお客様によってはこの
万が一先にICカードを載せられてしまうと取り消し入力に時間が掛かってしまい、混雑時に他のお客様にもご迷惑となりますので、あらかじめ乗務員がカードリーダーの上に手を載せておいて未然に防ぐようにしましょう。
「では、ICカードをカードリーダーの上に載せてください」
トカゲイルさん、なかなか大きな手なのに器用にICカードをつまめますね。いつ見ても感心します。
はい、今運賃箱の現金投入口上の画面には
『積算を行います。ICカードをリーダーの上に置き、動かさないでください。』
と表示されていますね。
今はカードを読み取っているので、お客様がカードを動かさないよう乗務員は注意を払います。読み取っている間は手でカードを覆う様に置くのも手ですね。
画面が『カードを動かさないでください。残額Y230』というふうに切り替わりました。ここではお客様と一緒に残額を確認しましょう。
「トカゲイルさん、残額は230円ですね」
「そうかい?あまり残ってなかったって事かい?」
「そうですね。片道分くらいしか残ってません」
「ありゃりゃ、危うく帰れなくなるとこだったか!ワッハッハッハ!」
トカゲイルさんは豪快に笑ってらっしゃりますが、帰れないという事はありません。当バスはお客様が運賃を持ち合わせていなかった場合でも対応できますし。
まぁ、面倒な手続きではありますが。
話が逸れましたね、続けます。
「トカゲイルさん、チャージの金額は5千円。よろしいですね?」
「うん」
お客様にチャージする金額はしつこいくらい確認しても構いません。
一回確定してしまうと、後から払い戻しはできませんので。
チャージは5千円ですので、パネルの(5)と、【IC入力】のボタンを押します。因みに、チャージ出来る金額は1千円から1万円で、1千円の場合は(1)、1万円の場合は(10)になります。
今、画面は
『カードを動かさないでください。
積増額 ¥5500
実金額 ¥230
投入額 ¥0 』
となっていますね。
「では、お金を紙幣投入口に入れてください」
トカゲイルさん、先ほどのカードの時もそうでしたがこの大きい手でお札を器用にピンと伸ばせるものです。
今、『ピッ』という音が鳴りましたね。この音はチャージが完了したことを知らせています。
『残額 ¥5730
積増が完了しました。
カードをお取りください。』
この画面が出てきましたら、一度乗務員の手でICカードをカードリーダーから外し、パネルの【カード照会】ボタンを押してから再度ICカードをかざします。
すると残額が画面に表示されますので、お客様と一緒に必ず残額を確認します。
「トカゲイルさん。一緒にご確認をお願いします」
「はいよ。5730、確かに」
金額の後に
滅多に言葉にする事はないでしょうからね。
「ありがとうございました。カードをお返しします」
これでチャージは完了しました。
どうです?意外と面倒でしょう。
お客様が少ない時はどうって事ないのですが、これがラッシュ時になると、とても大変です。それと、もう一点。
「そういえばトカゲイルさん。ICカードは乗り口でタッチしましたか?」
「う~ん・・・あぁ!忘れてた!久しぶりだからすっかり忘れてたよ。スギタさん言ってくれてありがとな」
危ないとこでした。ICカードで乗車の場合は、必ず乗り口のカードリーダーにかざしてもらわなければなりません。
でないと、何処から乗車したのか分からないため、運賃箱のカードリーダーにかざしても受け付けないからです。
勿論、そういった場合でも対応方法はありますが、ややこしい上に時間も掛かるのでお客様によっては怪しいと思ったら確認した方がベターです。
トカゲイルさん、タッチしてから一番後ろの左の窓際に座ったようですね。いつも狭くないのか気になりますが、図体のデカいトカゲイルさんなりの気遣いなんでしょう。
さ、時刻は5時25分となりました。それでは出発しましょう。
『ドアが閉まります。ご注意ください』
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