破壊目標のバーサーカー

ちびまるフォイ

どうやって利益出してるかは破壊的にわかんない



破壊目標:○○町の△△丁目にあるキーホルダー




破壊アプリ、というものを落とすとスマホに連絡がきた。

指定の場所に行ってみと、使い古されたクマのキーホルダーが置いてある。


「これを壊せばいいのか」


キーホルダーを地面に置き、踏みつぶす。バキッという音とともに割れた。

以上。


「……こんなんでお金入るのか。なんてね。なにやってんだろ」


家につくころ、入金されていたのでさらにびっくりした。

しかもメッセージまで届いている。



"破壊協力ありがとうございました。

あなたが破壊したのは、とある男性が単身赴任するさい

まだ小さい娘がはじめてお小遣いで買ってプレゼントしたものです"



「……え?」


動画ファイルまでついている。場所は俺が行った指定の場所。

きっと俺が壊すところもこの監視カメラで見ていたのだろう。


地面に壊されているキーホルダーを見つけた中年の男は泣き崩れていた。


「ウオォォオォ……オオオオッ……!」


獣のように悲痛な叫びをあげていた。


「し、知らなかったんだ!! そんなものなんて知らなかった!」


動画なので届くはずもないその男に必死に謝った。




破壊目標:○○地区△△の段ボールにあるリモコン



そして、次の依頼がやってくる。


 ・

 ・

 ・


ビリィッ!!


破壊目標である手作りのトートバックを引き裂いた。

持ち主が来る前に早く立ち去らないとまずい。


帰りながら入金を確認した。


「よしよし、お金も貯まってきてる」


同時に持ち主の情報も送られて、見ない限り入金されない。

どうせ見たところでどうにもならないし、やりづらくなるのでもう見なくなっていた。


どうせ形あるものすべて壊れるのだから、いいじゃないか。


アプリのタイトルにも書かれている。


『スクラップ・アンド・ビルド 破壊から創造が生まれる』


と。

俺が壊すことで、誰かが物に縛られなくなるならむしろ人助けだ。




破壊目標:△△にあるブレスレット




いつものように指定場所に向かうと、その日だけはちがった。

違ったのはお膳立てじゃない。俺が平常心でいられなくなった。


「これ……俺がプレゼントしたものだ……!!」


かつて忙しさを理由に分かれた元恋人への初プレゼント。

センス悪いね、なんて茶化されたのに。


「破壊目標にあるってことは……まだ大事にしてくれてるってことか!?」


これを破壊して絶望する彼女の顔を想像すると体が震えてくる。



『センス悪いね、こんな色普通買わないよ?

 ふふっ、でも……大事にするね』



「ああ……あああ……」


壊せなかった。


物に縛られているんじゃなくて、思い出を大事にしているんだ。

その思い出を壊すことなんてできっこない。


はじめて破壊目標を達成できずに家に帰った。


住み慣れた家は誰かが入った形跡がある。


「……あれ!? ない! ない!! どこにもない!」


死んだ父が最後につけていた腕時計がない。

嫌な予感がする。


破壊目標:○×丁目にある腕時計


俺のスマホにもメッセージが届く。

慌てて向かったが、待っていたのは無残に破壊された時計だった。


「うああああああ!!!」


頭の中で親父との思い出が走馬灯のようによぎっていく。


『ワシは良い父親じゃなかったけぇ……。

 最後にお前にこれをやる……今まで悪かったなぁ……』


父の最後の言葉と託された時計。

今はもう地面の上で、ただの部品になり果てている。


「ふざけるな……ふざけるなよ……!!」


メラメラと怒りが燃え上がっていく。

アプリの開発元を特定しすぐに向かった。


「なっ……誰だ君は!?」


金属バットで目に入るすべてを壊していく。


「なにが破壊から創造が生まれるだ!! ふざけやがって!!

 だったらこの会社もぶっ壊してやるよ!! 想像してみろよ!!」


暴れていると奥から社長がやってきた。


「君、こんなことして、一体何になるっていうんだ」


「人のものを勝手に壊して偉そうに言いやがって!

 自分のものが壊される気分はどうだ!? 怖いか!!」


「いいや、怖くない。我々は常に失う恐怖を意識して生活している」


「じゃあ、この会社ぜんぶぶっ壊しても問題ないよな!!」


社員はみんなオフィスから逃げ出した。

あらゆる器材を破壊し、壁を壊し、完全に機能できなくなるまで徹底的に破壊した。


何もかも破壊し終わるころには深夜になっていた。


疲れ切ってオフィスを出ると社長だけが立っていた。


「満足したかい」


「お前らこそ、いったい何がしたいんだ。頭おかしいよ!

 人のものを壊させて、それで金を与えて……何が目的だ!!」


「人はつらい現実よりも美化された過去を選んでしまう。

 けれど思い出にとらわれたら人は前に進めない。我々は進化を促してるんです」


「何言って……お前らみんな……頭おかしいよ……」


「何言ってるんですか?」


社長はにこりと笑った。



「お金のために人のものを壊して、

 悲痛な叫びをも黙殺して壊し続ける人間の方が

 私はずっとずっと狂っているように見えますよ?」

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