第2話 次代魔王、人間界へホームステイ!

「人間界ってどんなとこ?」


「えっと、えー、そうだなぁーー。」


魔王は考え込んでしまった。


(振りをしてるな、お兄様、人間界生活をサボったな……。)


「そ、そうだ!平和だったぞ!こんな薄暗い魔界なんかよりも……。」


「へー、でも私、ここが好きなんだけど……

。お兄様といるこの魔界が大好きなんだよ?もしも、私がいない間にお兄様が亡くなられたら……」グスン


「サリナ……お前、そこまで俺のことを!」


「なーんて冗談は置いといて!」


「じょ、冗談!?」ガーン


「お兄様!切り替え切り替え!そんなんだから魔界の政治も成長しないのよ!」


「そ、それは……。」


なかなかに痛いところを突いてきやがる。やはり妹はあなどれないな。


「で、でもサリナだって俺が死んだら悲しいだろ?悲しいよな?悲しいと言ってくれ!」


半泣きで妹の足にすがる魔王……。


シュールな光景である。


「そんなことより、私のお気にの服どこー?」


「そ、そんなことって……。」


俺の命は洋服以下なのか……。


「あれー?見つかんない!」


「どんな服だ?」


「えっとー、紫色のドレスよ!飾りっ気のないやつ……。」


「それなら今……お前が着てるぞ?」


「へ?あっ!ホントだ!てへ&ペロッ!」


「俺以外にそんなことすんなよ!」


「なんで?はっ!もしかしてお兄様、私のかわゆい姿を独り占めしたくて……。」


「ちがうわ!魔王のイメージを落としたくないからだよ!」


「え?お兄様は私が出しゃばると迷惑なの?」


サリナの目には涙が浮かんでいた。


「お兄様は私が魔王になるのが嫌なの?私がわがまま言うから仕方なくさせてくれるの?」


サリナの涙腺は今にも崩壊しそうだ。


「い、いや、違う!俺はサリナに期待してる!邪魔なんかじゃなくて……、なんか、こう、なんかなんだよ!」


「なんかって何?わかんないよ!」


「だから、その……俺は、お前が好きだ!もちろん妹としてだ!だから俺は本心は人間界には行かせたくない!ずっとそばに居たい!でも、俺はお前を信じてるから!俺よりも凄い魔王になってくれるって!」


「ほんと?」


「あぁ、ホントだ!だから泣かないでくれ!」


「うん、わかった!私、泣かないよ!」


「よし!それでこそ次代魔王だな!」


そんなこともありながらサリナの人間界生活の準備は着々と進んでいった。


「歯ブラシよし!水筒よし!財布よし!ゲームよし!あっ、お兄様!おやつ代300円は〜?」


「遠足じゃねーよ!」


「冗談だよ!」


「なんだよ、もう……。」


「よし!全部準備できたよ!」


「ほんとに護衛は要らないのか?」


「要らない!」


「見送りは?」


「要らない!」


「じゃあ、じゃあ……、」


「お兄様!私はもう子供じゃないの!そんなにあれこれされなくても大丈夫よ!」


サリナは胸を張ってドヤ顔を決める。


「サリナ!お前、いつの間にかこんなに成長して……。」ウルウル


「お兄様、泣かないで!」


「1年もサリナと会えないなんて……」


「1年なんてあっという間に過ぎてしまうわよ!」


「そうだな、成長して帰ってくるサリナを楽しみに待っているよ。」


そこで魔王はふと思い出した。


「そう言えばサリナ、人間界ではどこに住むんだ?」


「あっ!忘れてた!どうしよう……。」


「だったら俺が昔、泊まらせてもらった家に伝えようか!」


「うん!って大丈夫だよね?変な人とかいないよね?」


「あぁ、大丈夫だ、普通の家庭に普通の住民だ。」


「ならいいわよ!」


サリナも少しワクワクし始めた。魔王は少し離れて携帯でどこかに電話している。多分、サリナが泊まらせてもらう家の人だろう。


「サリナ、泊まらせてくれるってさ!良かったな!」


「うん!ありがとう、お兄様!」


人間界へは1時間に一本しかない魔界列車の特急に乗らなくてはならない。サリナが見送りはいいというので魔王は城の入口で手を振る。しばらくして空高く登っていく列車が見えた。


(はぁ、ついに行っちまったか……、サリナが居ないと寂しいな……。)


ガチャッ


「お兄様!」


「さ、サリナ!なんで戻って……。」


「乗り遅れました!だからお願い!人間界に連れていって!」


「しょうがないな……、ちょっと待っといてくれ。」


(やはり、厳しいな……、あとどれくらいもつか……。)


「よし、いいぞ!しっかり俺に捕まっておけ!」


「分かった!」


ギューッとされて背中にあたる柔らかい感触は床以上、座布団未満だ。だが、これで最後になるかもしれないと思うとずっとこのままでいたいと思ってしまうほど幸せに感じる。


「お兄様?どうしました?早く行きましょ!」


「あぁ、すまん、じゃあ、行くぞ!」


魔王が右手を振りかざし、左手でマントをひるがえすと二人の体はもうそこには無かった……。


ヒュンッ


「よし、着いたぞ!」


「思ってたよりも静かなのね……。」


「泊まらせて貰うのは……あれだ!」


魔王が指さした方向にはそこそこ立派なお家が見えた。


「おー!すごい家!」

「――――じゃなくてそっちだ!」


魔王が指さしたのはふつうの一軒家。


「めっちゃ普通だ……。」


「昔とあまり変わってないな!よし、サリナ!行くぞ!」


二人は家の前まで移動し、呼び鈴を鳴らす。


ピンポーン


「はーい!」


中から女性の声が聞こえた。そして、ドアが開くと……。


「あら!しー君!久しぶり!」


「しー君?」


「その呼び方はやめてくれよ!」


「お兄様の名前はシオンだから、そこからとってきたんだ!」


「サリナ、やめてくれ、魔王っぽくない名前は結構気にしてるんだ……。」


「わ、わかったわ……。」


「しー君!そちらが話の……。」


「はい、妹のサリナです。」


魔王、いや、シオンはサリナに挨拶するように合図する。


「あっ、えっと、サリナです!魔王になるために人間界についてもたくさん学んでいきますので、よろしくお願いします!」


「こちらこそよろしくね!あっ、私は川端 真澄よ、マスミってよんでね!」


「マスミさん、改めてよろしくお願いします!」


互いに挨拶を交わしたところで……、


「じゃあ、俺は帰るな!」


「え!お兄様、もう帰るの?」


「あぁ、仕事もあるからな!病気でも仕事はあるからな……。」


「じゃあ、頑張ってね!」


「ありがとう!じゃあ、楽しんで来いよ!」


シオンが空中に指をスライドさせると空間に裂け目ができた。そこにシオンは消えていった……。


「じゃあ、サリナちゃんもおうちに入って!」


そう言われてサリナは玄関に足を踏み入れる。


「綺麗に片付いてますね!」


「ふふふ、ありがとうね。」


ここからサリナの魔王修行の人間界生活が幕を開ける!

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次代魔王がこんな美少女でもいいよね! プル・メープル @PURUMEPURU

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