第15話 はじまり
幻守と天妖の争いは、幻守で起きた数多の不祥事によって決着がついた。
勝敗は勿論、天妖の勝利。幻守にとっては屈辱的な敗北となる。
立て続けに起きた出来事に民衆は惑う。だがすぐさま、まるで見計らったかのようなタイミングで、希望は見つかった。
新たな幻守之巫女の卵。顔も知らない、詳細も分からない、そんな人物だが、七代目幻守之巫女の認める逸材。それだけで充分だった。
民衆が望む希望。そして悠吏という片割れを失った事により『双子の禍』を免れ、その禍を最も恐れていた老中は和沙の反逆によって、そのほとんどが姿を消した。
少年が己の全てをかけて、救い、共に生き、解き放った少女は、懸命に、約束を信じ、生きる事を誓った。
「姫様。そんな薄着で居ては、風邪を引いてしまいますよ」
「大丈夫だよ、青嵐。もうちょっとだけ、居させて」
先の戦で失った者達の墓が並ぶ場所で、飛鳥は両手を合わせて黙祷を捧げていた。彼女が膝をつく先にある墓標には『和沙』の名前がある。
本来なら、幻守之巫女の墓は別の場所にある。これは和沙本人の遺言により、建てられたものだった。反逆者とは言え、偉大な神に仕えた者に違いはないのだ。
「…よろしかったのですか?その…先代の」
「うん。悠吏の墓はいらない」
服についた土を払いながら、飛鳥は立ち上がる。
夕焼けに染まる空を見て、目を細めた。
「信じているから。兄様を」
約束通り、再会する事を。
悠吏と過ごした日々は、決して長いとは言えないかもしれないけれど、毎日が輝いていた。美しい物や人や世界を知った。そしてこの先ももっと、色んな事を知りたいと思った。
今は一緒にはいられないのだろう。この胸に空いた虚無感が、それを痛いほど伝えてくる。
けれど、下を向いてばかりはいられない。もっともっと遠くへ、高く飛んで、いつかその自分が見てきた素敵なものを、悠吏に伝えるのだ。
貴方が教えてくれた『世界』はこんなにも素敵で、貴方すらも知らない事があるかもしれない。
「…でもやっぱり、一人じゃ眩しすぎるから…早く、迎えに来てね」
これは、物語のはじまりに過ぎない。
自由を得た鳥籠の鳥は、何処までも、飛び続ける。
鳥籠の姫君 彩迦 @tsaika25
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます