第16話 俺の名をもって命ずる

起きてすぐに目に入ったのはルミアネの姿だった。


息を確認して俺は安堵のため息を吐く。


やけに騒々しく誰かが戦っていることを理解して俺はその方向を見る。


見ればアーガルとアニーアが諦めようとしていた。

それを見て俺は少し安堵した。


彼らが諦めたことにじゃない。


「まだ生きている」


俺は飛び出した。

死んだ後?


そこには何もない…


いや、何かあってはいけない。


今俺が生きる意味がなくなってしまう。


だから


「死後にはなにもなかったぞ」


拳で蹴散らし俺は二人の前に立つ。

そういえば剣がないな。


「おはよう、ところで俺の剣知らない?」


あれ?二人ともぼーっとしてる。


まぁなくても戦えるか…戦えるのか?



んー


「す、すまない取り乱した、お、おい?」


そもそも思い出したと言ってもあれだけだしなぁ。

できることが分かってもそれがいったいどれだけの力を持つか未知数ともいえる。

そう考えるなら剣はあるに越したことはないんだけどなぁ、てかそもそもの話、俺の想定している魔力とこの世界の魔力があっているのか、法則自体がこの世界相当おかしい気もするし・・・



・・・・・


「おい!!話を聞けと何度言ったらわかるんだ!!!!」

「へ?」


アーガルの大きな声に俺は思考から現実へと戻り声を出す。


「そうだったゆっくりしている暇はないよな」

「あぁ、ようやく話せるな。すまないお前の剣は…」


アーガルはそう言って半ばから折れた剣を俺に見せてくれる。


「そうか…まぁそうだよなあれだけ強いやつの攻撃を受けてくれたんだ仕方ない。なら行ってくる」

「おい、待てよ」

「なんだ?」

「お前が向かってなんになる」


アーガルは真剣な目でそう言ってくれた。


確かにそう。


俺は勇者の中で最弱だ。


それどころかこの戦いに俺はついていけてなかった。


「サーナの邪魔になる」


無慈悲にも言われた言葉。

不思議と傷をつくことはなく…


「かもな」


自然と俺は肯定した。


けど


「少し思い出したんだ」

「何をだ」

「もしかして召喚される前のことですか」


そこで初めてずっと黙っていたアーニアが口を開いた。

それに対して俺は頷く。


「思い出したからなんだというのだ!!」

「知らんな、でも俺は召喚される前から戦い続けていた。ただそれだけの記憶だ」

「戦っていた?俺たちだって」

「お兄様!!」


感情的に怒るアーガルをアーニアが静止した。


「彼は勇者です、私たちが呼んだ。ですので頼るしかないんですよ。勝手に戦争に巻き込んで勝手に逃げろなんて言ってしまえば私たちが彼を召喚した意味がなくなります」

「・・・」


アーガルはアニーアの言葉を黙って受け入れる。


「ですのでよろしくお願いします暁 藍葉さん」


あの日召喚された日のことを思い出す。


ホント、知らない名前だ。


だから


「あぁ頼まれた。それと俺の名前は・・・




******


俺は再び戦場に立つ。

俺の思い出したものは名前と感情だけだ。


かつてもこうして立った。


それだけは覚えている。


わずかに身震いする。


それはトラウマであり恐怖であり焦燥でもある。


不思議な感覚だった。

かつての俺もこんなことを考えたのだろう。


でも、



それが俺がこの場所に立つ理由だ。


二つの存在がぶつかり合う戦場の真ん中に俺は立つ。


「っ!何やっているんですか!!」

「死にに来たのか小僧!!」


声が聞こえる。


悪魔のような男が向かってくる。

すさまじい力を内包したエネルギーの翼は俺を殺そうと迫ってくる。


それに対して俺は


何てちっぽけなんだろう。


不思議と思えた。


俺は手を掲げ。


「有象無象共よ」

「何をしようが無駄だ雑魚が!!」

「くっ間に合わない」


声が聞こえる。


「お前たちの力を」   

「逃げて!!」

「死ね」



辛そうだ。


苦しそうだ。


泣いている?


どうかしたのか?


そうかそうなのか。


そうかお前のせいか。


「楽しくしてやるから俺に貸しやがれ」

(わかった)


声がはっきりと聞こえた。


それと共に静寂が訪れる。


「ば、馬鹿な、何故…なぜ貴様が魔王因子を持つ者のみが許された翼をもっている!!」

「・・・・うそ」


俺の目の前には翼を失った男がいる。


「なぜ?なぜ私の翼がない?」

「それはそうだろ?こんな無理やり従わせやがって、魔力の総合意思は屈服を嫌う。なら魔力吸収をもって説得すれば制御くらい奪えるさ」

「だが魔力があったところで貴様くらいなら」


突撃してく男に俺は冷静に構える。魔力の翼から魔力を取り出し選択をする。


キィィィィィン


「そうかずっと前から協力してくれていたんだな」


魔力を加工する。


それは魔法と呼ばれるものでありこの世界の法則だ。


「ガンレインファイヤ!!だったかな?」


迫り来る男に炎の弾幕が放たれる。


「その程度で止められると思ったのか!!」

「思ってないさ、それにこれで終わると思われたほうが不愉快だ。てか詠唱要らないのか?なら好きに変わっちまえ」


俺は何もせずにそれだけ言うと翼が消える。

それと共に俺は後悔した。


大地は割れ、地面を溶かすほどの炎が辺りを焼き、雷撃は落ちている。


そんな終末とも思える状況がしばらく続き俺はそれを見ていることしかできなかった。


「ってあなたが起こしたことでしょう!!」

「ようサーナ元気そうだな」

「それより何ですかこの状況?あなたが起こしたんですよね?」

「そうとも言うが違うとも言える」

「なんですかその歯切れの悪さ」

「いやぁちょっと面倒でさっきの魔力一切制御しないで現象に変換したらこうなっちまった」

「はぁぁぁ!何を言ってるのかわからないんだけど!!」

「まぁまぁ、まだ終わってなさそうだ」


俺は男のほうを見る。


先ほどまでの天変地異は収まっておりボロボロで立ち上がる男が見える。


「くははは、これで魔力はないこちらの勝ちだ!!」


勝ち誇り高笑いをしている。

ただ、ほんとにそうかと聞かれれば否と俺は答える。


なぜなら


「力を貸してくれ」


そう言葉を紡ぐだけで周囲の魔力が俺のもとへと集まってくる。


「貴様何者だ!!なぜ魔王因子もなしに魔王様のような力を使える」

「さぁてな」


動き出す。

次は完全なる近接戦闘に移行し男と殴り合う。


「ほら視線が泳いでる!」

「っく」


******


何故だ。


私はなぜここまで恐怖している。


目の前の少年は確かに強い、しかし魔力の扱いは下手だ。


しかし何故か私の攻撃が目の前の少年に届く未来が見えない。

私は生まれた時から戦いに身を置いてきた。


なのに目の前にいるこの少年のほうが経験を積んでいるような気さえしてくる。


「ほら視線が泳いでる!」

「っく」


私の悪い部分を一つずつ挙げていき私の精神は折れていく。


そうかようやく理解したこの男は確かめているんだ。


まるで長年使わずに錆びついてしまった自分の技術が使えるか確かめるように。


情けない魔王因子を受け入れた時から私の魔力は受け入れるための器にしかすぎず魔法も使えない。

純粋な身体能力のみの戦い。


それは少年も同じであり、おそらく私の中にある器を警戒しているのだろう。


ならば最後まで足掻きその無駄な警戒の結果お前が疲れ果て隙を晒すのを…


「お前、切り札もなさそうだな」


息を呑む。


「舐められたものだな。この程度で私を倒せるとでも!」

「いや、今までが過剰評価だったんだ」

「生意気な!!」


振るわれる一撃は全ていなされる。

この少年に武器はない。


くそっ、それなのに…なぜ…何故…



「……の名を持って命ずる!」


魔力の本流が少年を中心に渦巻く。

そこでようやく私は


「有象無象共!俺に…」


気づいた。


遅かったのかもしれない。

いや、妥当だったのかもしれない。


「力をかしやがれ!!」



放たれる魔力砲に私の体は消えていく。


そうか、初めからこの男は私より乗り越えてきた修羅場違うのだな…。


そう、この男は戻ってきた時からかつての魔王様と同じ…濃密な血の匂いが染み付いてる。



**



「ふぅ、なんとかなったな」


俺は一息ついてその場に腰を下ろす。

にしても相手が油断してなかったら負けていたのは俺だ。

俺の場合は協力であって支配ではない以上、あの男にも十分な勝機はあった。


今回、相手が完全な油断の結果の勝利しか過ぎない。


「腰を下ろしてる場合ではないですよ」

「あ、サーナ…無事…とは言い難そうだな」

「まぁ、魔族と戦闘があればこれだけの傷は負うものです」

「確かに強かったな」

「あなたは一方的でしたけどね」


俺は笑って誤魔化す。

言うほど一方的なんかではなかった。


もしあいつが一か八かで魔王因子を使っていたなら苦戦はしたはずだ。

なら、なぜ勝てたか…


混乱と油断。


その二つの結果にしか過ぎない。


「それよりも、今の状況をどうにかしないいけませんね」

「何かあったのか?」

「ドラゴンゾンビと勇者の3組が現在交戦してると遠くからわかっています」

「それの何が問題なんだ?」


あいつらな大抵の敵はどうにかなるだろ。

あれだけ自由度の高い能力達だ。


「いえ、おそらくジリ貧…いや、今の勇者たちでは火力が足りずに死にます」

「どう言うことだ?」


その疑問にサーナは答えてくれる。


「ドラゴンゾンビというのは魔力の供給がある限り無限に再生します」

「詩音はともかく他の二人は火力と手数高いだろ?」

「今の彼らの手数と火力じゃまだと言う話です」


そんなに硬いのかぁ。

なるほどなぁ。


「さっきの俺の起こしたものじゃ足りない?」

「全く足りませんね確かにとんでもない現象を引き起こしましたけど少なくともアレの倍は火力が欲しいです」

「そうか…ならいけそうだけど…」

「は?」


俺は歩き始める。


「話を聞いてました?アレの倍ですよ!」

「うん聞いてた。だから言えると思った」

「だから!そんな軽く言わないで…」


頭を撫でる。

特に意図があったわけではない。

ただ心配されて少し嬉しくなっただけだ。


俺の無茶を止めてくれる人に涙出そうになっただけだ。


「軽い話だ…なんてったって名前を思い出さんだから」

「はぁ?自分の名前を思い出すことがなんの関係が?」

「まぁまぁ、やらせてくれよ」


俺はサーナから離れる。


「そうだ俺の名前は…」



**


**


詩音 忍は現在焦っていた。


(目の前にあるドラゴンは明らかに硬いし高い再生能力がある。俺の火力じゃ抜けきれない。仲間に頼っても火力不足、一ノ瀬と琴吹は…)



ドラゴンの攻撃を避けながら一ノ瀬と琴吹を探して見つける。


二人は現在、一ノ瀬は無数の剣を持ってして押し返そうとしてるが明らかにドラゴンの再生能力の方が早い。

琴吹は高火力で殴っているが治る速度のほうが早い。


詩音は考えていた。

彼ら3人の仲間はとっくに逃している。


(それならこのまま撤退すべきか…)


そう過ぎった時だった。



「違うよな…そんな簡単に終えて言い訳がない。こんなふうに終えていい訳ない」


双剣を構える。


彼は走り出す。


無数の幻を生み出しドラゴンを翻弄する。


「俺には火力がない。でもひたすら足止めはできる」


そして、それを察した一ノ瀬の動きが変わる。


「琴吹!お前のお膳立てしてやる!」


一ノ瀬はそう言って無数の剣を射出する。

それによってドラゴンの体に無数の数が生まれる。

傷が治る前にひたすら剣を刺す。


「グァァォォォ!!!」


ここで初めてドラゴンの声を聞いた。


「『剣創魔法』伝説を神話を超えて再現せよ!『エクスカリバーレプリカ』」


現状の琴吹ができる最大火力の魔法。

これ以上はMPが足りずに発動すらできない。


だが、その火力は絶大。


一時とは言え伝説の聖剣を再現する魔法であり、その力は絶大だった。


ドラゴンの体を抉る。


しかし琴吹の技量が追いついていない。


再生より早く攻撃することができてない。


「解放(リリース)」


故に溜め込んだ魔力の全てを解き放つ。


その力は暴力となり、ドラゴンを飲み込む。


そして、爆発する。



大地がエネルギーにより破壊され、蒸発する。


残ったは熱によって発生した歪みと土煙。


「勝ったのか」


詩音そう言いながら琴吹を支えに行く。

琴吹は力を出し尽くして立つことすらままならずに詩音の肩を素直に借りる。


「よくやった!これで俺たちの…」


グオオオオオオオオオオオオオ!!!!!


咆哮が響く。

それは空気を震わせ大地を揺らす。


恐る恐る3人はドラゴンを見る。


「嘘だろ」

「あれで倒せないのかよ」

「くそっ、もうさっきの一撃は…」


絶望がこの先にはあった。


あたりの魔力がドラゴンに集中する、


それはドラゴンの口に行き、ブレスの準備をしている。


もう終わりをさとる。



その瞬間、ドラゴンの溜めていた魔力が消失する。


『俺に力を貸しやがれ!!!!』


3人は見た。

凄まじい魔力の奔流を…その中心にいる存在を…


「よっ、割り込んで平気か?」


そこにいたのは無剣の勇者だった。


彼の纏う魔力は凄まじいものであり、いるだけで周囲を威圧している。


「お前が今更きて何ができる!」

「覚醒してるようだが、だからと言ってアレに勝てるわけがないだろ!俺の最大火力でも無理だったんだぞ!」


一ノ瀬と琴吹の言葉に「確かにと彼は笑う」だが、詩音は違った。


「いけるのか?」

「どうだろうな、久々にやることだからなんとも、一ノ瀬少し丈夫な剣を用意して欲しい」


一ノ瀬は歯軋りをする。


「お前!現実を見ろ!どんな力を身につけたか知らないがあれは今の俺たちが勝てる相手じゃない!調子に乗るな!」


その言葉に彼は大きくため息を吐く。

まるで呆れたようにあるいは説明が面倒かのように。


「お前は大切なものを失ったことがあるか?」

「は?」


彼はポツリと呟く。


「失ったものはあるのかと聞いてるんだ!理不尽に何かを失い、悲しみに暮れる余裕もなくただひたすら戦うだけの日々を過ごしたことはあるかときいてるんだ」

「何を…」

「あるのか?少なくとも俺はある。もうこれ以上何かを失わないために俺は戦う」


3人は息を飲む。

彼の言葉の重さ、そしてその実感は平和な世界に暮らしてきた3人に重く響く。


「わかったよ」


剣を作り渡す。



「ありがとう」


彼は剣を手に持ち目を瞑る。


ドラゴンが怯んでいた様子からようやく立ち直り彼を見る。


「俺の名をもって…命じる」


空気が重くなる。

彼の周りの魔力がまるで足を持つように動き回り周囲をかき乱す。


「俺の名前…」


**



俺は一ノ瀬の剣を持ち目を瞑る。


「俺の名を持って命じる」


声が聞こえる。

亡霊も楽しげな声も怨嗟の声もみんなの声が聞こえる。


これはただのカケラ。



消えることできなかった者たちの残滓たち。


いや、違う消えてしまったものたちの残滓だ。


『あなたは違うのですか』


『魔王様』



ごめんな、俺は魔王じゃないんだ。


「俺の名前…」


あたりの力が痺れるように震える。


「時雨 天百合の名を持って命じる」


ドラゴンが俺を殺そうと爪を振り下ろす。


「有象無象どもよ!俺に…力を貸しやがれぇぇぇぇぇえ!!!」


『わかった』

『いいよ』


声が聞こえる。


魔力が俺の持つ剣に集まり溢れかえる。


剣を構える。


もっと…もっと魔力が溢れてくる。


それを押さえ込むわけでもなくそのまま力のままに振り抜く。


ドラゴンの腕を切り飛ばす。


再生が始まる。


だが、それよりも早く終わらせる。


魔力が臨界し、辺りを光で照らす。


強大な魔力をそのままドラゴンにぶつける。



それは押しつぶすような波のようなものであり、ドラゴンの体は強大な魔力に呑まれて消えていく。


苦しみの咆哮をすることもできずに…




グオッン



ただ風が吹き荒れる。


だが、まだ終わってはいない。



グオオオオオオオ!!!


咆哮が響く。

目の前にいるのは体の大半を失ってもなお、再生していく、ドラゴンゾンビがいた。


「さてと、ここからがお互いに本番だ」

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