第10話 過去Ⅰ1

 東京都の地図上のほぼ真ん中にある府中市。その市の西側に家族同士の仲の良い五軒の集合住宅があった。皆藤家と槙野家が道の入り口に建ち、皆藤家の隣に夏川家、槙野家の隣に波多野家が建ち、道を塞ぐように道の奥に建つ一番多いな家が舘家。子どもたちの歳が近く、引っ越してきた時から仲の良いお隣さんだった。

 猛暑日が連日襲う夏休み。八月の下旬にこの仲良し五家族全員参加のバーベキューが行われた。

 一時間と少し車を走らせたところに秋川がある。バーベキュー場ではないため道具などは一切ないが広めの河川敷で知る人ぞ知るスポットである。これがまた二十人前後でやるのに丁度いい広さなのだ。

 十時頃に河川敷に着くと大人たちはバーベキューの準備に取り掛かり、子どもたちは川遊びを始めた。

「隼、魚いんぞ。先に捕まえた方が勝ちな」

「お前一人でやってろ、雪司。俺は静かに水浴びをする」

 雪司の誘いに断固拒否する隼。

「んだとこらぁ」

 雪司は隼の意を汲むことはせず、思いっきり水をかける。

「私も混ざる〜」

 二人のやり取りを知らない星が雪司だけでなく隼にも水をかけた。

「やんのか、星」

 雪司は容赦なく星に水をかける。キャーとか言いながら。

 しかし隼はやり返さない以前に動いてすらいない。髪からびしょ濡れになっているにも指一つ動かそうとしていない。星にやられたことに心が折れたのだ。星に雪司と同じレベルだと思われていることにプライドが許さないのだ。

 しかしやられたらやり返す、やるなら徹底的に、がモットーである以上恥を忍んでやり返さなければならない。

 こうして雪司、隼、星三人の水の掛け合いが始まった。傍から見れば仲睦まじいだけだが。

「混ざりに行かないの?登。楽しそうって顔しているわよ」

 日差し対策に麦わら帽子を被り、水着の上にパーカーを着る咲心。足首まで川に入り、ぴちゃぴちゃと音をたてながら歩いている。

「馬鹿言え。インドア派の俺にあんなんやる体力あると思うか?」

 登は部活にも入らず、下校すればその後家から一歩も出ない生活をしている。だから体育もほぼ突っ立っているたげである。

「確かに。そんなにパソコン楽しい?」

「おうよ。嘘っぱちなことを書き込んでいるのに本当だと思って騒ぎ出すんだもん。見てて楽しいに決まってんじゃん」

 登の性根が腐っていることがわかる発言。咲心は死んだものを見る目で登を見る。

「おい、その目だけは止めてくれ。心が抉られる」

 登は目と目を合わせないようにその視線を手で遮る。

「運動しないからそんな考えが浮かんで来るのよ。何か興味あるものはないの?」

 雪司はテニスを隼と咲心はバスケットボールを星はバレーボールを部活動でやっている。それに対して登はどうも気が乗るスポーツがない。そもそも体を動かすのが好きではないのだ。

「これと言ってな・・・・・・。疲れるの嫌だし」

 それでも男か、と叫びたい心を静ませて笑顔を作る。

「そうだよね、ってことあるかー」

 我慢できず足で水を飛ばす。登は反応できず全身に浴びた。引きこもっているからこうなるのだ。咲心は心の中でそう言い勝ち誇るのであった。

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✕(Cross) Childs 牛板九由 @kuyu0222

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