第9話 復帰6
――次の日。
礁人はあるお寺に来ていた。それは両親の墓である。
これは四年間少年刑務所にいた礁人が出てやることリストの二番目にあったことだ。一番目はもちろん雪司たちに会うことだ。
チームの奴らには待機を言い渡したのにも関わらず、大半がついて来てしまってこのお寺の前には柄の悪い奴らがたむろしているというお寺にしては最悪な状況になってしまった。何故ならお寺の中、お墓の前にはチームの古参組しかいないからだ。墓の前で騒がれるのが嫌だからだ。
「遅くなっちまったな。四年間来れなくて悪かった。ムショにいたなんて言ったら怒るだろうけどもう終わったことだから許してくれ。これが俺の役目だったからよ。まあ、もし怒るなら俺を頭良く生まなかったことに怒ってくれ」
礁人はしゃがんで手を合わせて笑って話しかけた。返事なんて返ってこないが、口に出したくなったのだ。
「怒ってなんていないでしょう。元気な姿が見れて喜んでいるはずです」
隆正が確信めいて言う。礁人からしたら気遣っているしか思えないが。
「それならいいんだけど」
「そうだと思っとけ」
この場にはいないはずの人の声がした。礁人には懐かしい声であり、古参組には救世主の声だと認識した。古参組は驚き、咄嗟に声がした後ろを振り返った。それに対して礁人は驚きもせず、動きもせず、ほくそ笑んだ。
「ピエロ」
古参組が叫んだ通り、そこにはピエロの被り物をした男が立っていた。インナーのTシャツには『一日七食』とデカデカ書かれている。
「一日七食も食うのか、隼」
「食えるわけないだろ。つか分かってんのかよ、つまんねー」
隼と呼ばれたピエロの男は明かすことなかったその顔をここでようやく見せた。その顔を見た瞬間、古参組は再び驚いた。
ピエロの被り物の下は
隼は驚愕のあまり魚のように口をパクパクさせている古参組の間をすり抜けて礁人の隣に立つ。そしてお墓に向かって手を合わせる。
「弟は元気か?」
「もちろん、今は高校に通っている」
「それは何よりだ。それはそうとテレビ出まくってんな。ムショの中でよく見てたよ」
「俺を誰だと思ってる。天下の館隼だぞ」
「何ほざいてんだか。変わんないなお前も」
「お前は、大人しくなったな」
「ははっ、言ってくれるな。それはそうとてめぇらいつまで固まってんだ?」
礁人に声をかけられてようやく金縛りから解放された古参組。それでも口を何度か開けたり閉じたりしてようやく隆正だけ口を開いた。
「な、なんで、舘隼がピエロ?あんなにもテレビに出て騒がれている奴がピエロなんだよ。ありえないだろ」
「そういうのもわかるぞ、隆正。お前たちは被り物をしていない隼と会ったことがないからな。こいつが雪司、登、星、咲心の四人と同じ集合住宅に住んでたもう一人だ」
「なっ」
古参組に衝撃が走る。五つの集合住宅でもう一人仲間がいることは知っていたがそれがまさか超有名人だとは予想していなかった。
古参組が三度驚き、言葉を失っているのがあまりにも可笑しかったのか礁人と隼は豪快に笑う。
「何度驚いたら気が済むんだよお前ら。まったく体だけか成長したのは。情けないったらありゃしない」
礁人は立ち上がり、古参組の頭を軽く叩く。
「てめぇら帰んぞ。長居したら寺に迷惑だからな。隼、じゃまた今度。今度はゆっくり話そうな」
「ああ」
礁人たちが出たあと、もう一度礁人の親の墓に手を合わせ隼もその場を後にした。
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