cap3 解体失敗
「殺人はえっちと一緒」ユカはそう言う。
いやそもそもお前経験ないだろうと突っ込んだことがあったが、その時はキスされて黙らされた。
「快楽を得て、普段見ないものを見て、だけどそれは誰しもが持っているもので……体の中を覗くっていうのは、日常の中にある非日常を覗くと言うこと。それってつまりセックスと一緒。それが性器であるか凶器であるかというだけの違いでしょ?」
なんでもないように物騒なことを話すユカは、しかし美人だった。俺の予想だが、こいつは自分が可愛いと言うことを自覚していて、それでいて殺人という行為に酔っているだけのような気がする。殺戮と殺人。定義の違いはあれど、やっていることは一緒。たとえ小学生であろうと罪には問われるし、厳しい昨今においては将来的に死刑になる可能性もある。俺からしてみれば、狂気の沙汰としか思えない。
「というか、最近解体の腕鈍ってるんじゃない?この前はナイフに血なんか付けちゃってさ」
「吹くなよ素人。今お前で試してもいいんだぜ」
そんな会話をして、ユカの家の前で別れた。
みんなでいく旅行先には、ナイフは持ってくのはやめようと考え始めていた。
ギラギラした夕日に、道路に伸びる電柱の影。
一人だけの帰途と言うこともあり、そんな思考に浸る。
幾ら何でもそこまで節操ないわけじゃないとは思っているが、カッとなって解体なんかしちゃった日には目も当てられないし。
そんなことを考えていた時だった。
短いスカートに、校則違反であろうセミロングの茶髪。なかなかスタイルの良い女子高生を目の端で捉える。
……今日はあいつにしよう。
スマホをいじりながら歩いていて、絶好の獲物と言える。
最近は男ばっかりだったし、こういう若い女の子も良いか。
T字路を右にまかり、バレないように尾行する。
見た所武芸の心得も無いようだし、イケるな。
俺がもし青年くらいの歳であれば警戒くらいされるかもしれないが、今の状況を他人が見たらどっからどう見てもあとをつけているようには見えないだろう。
ポッケに手を突っ込み、ナイフの柄に触れる。
手のひらサイズの子供用だが、切れ味もよく刃こぼれもしない。
昨日研いでおいて正解だった。日が沈み、周囲が少しずつ暗くなってくる。
10分程歩き、ターゲットが右に曲がる。細い路地で、この時間ならまず人も通らない場所だ。
……今一瞬こっちを見たような気がしたが気のせいだろう。
一気に距離を詰める。後ろから見ると、薄いピンクのブラがシャツから透けていた。
「ねえ、お姉さん。」
俺の声に反応して女子高生が歩みを止める。闇討ちしないのは俺のポリシーだ。そこまで卑怯じゃ無い。
体がこちらを振り向く前にナイフを取り出し、自己最速で喉笛に刃を運ぶ。
最小深度で相手を絶命させ、コンマ1秒以内に四肢と胴体を20分割にするのが最近の目標。しかし最高16にしかできないのが最近の悩みだ。
意外に背が高く、今の身長では届ききらないため、飛び上がり絶命を試みる。
次にこの瞳に映るのは、麗しい血まみれの肉塊──。
「:命令:とまれ:」
その言葉を聞いた瞬間、俺はナイフを伸ばしながらジャンプしたそのままの格好で思い切り地面に転がる。
一瞬、自分が置かれている自体に脳の処理が追いつかない。──殺し損ねた?
いや、それよりもこの女の声を聞いた瞬間に体が動かなくなってしまった。
今も小指すら一ミリも動かず、瞬きすら許されない。
唾を飲み込んでみる。これはできるらしい。
「……なんて危ない子供なんでしょう。あと少し遅かったら殺されてた」
つまらなさそうな声は、セリフとは裏腹に酷く落ち着いていた。
「こんなものなんか持って。私を殺すつもりだったのかしら」
そういって俺の手からナイフを奪い、道端に投げ捨てる。
俺はどうなるのだろう。冷静に今の状況を分析する。
女子高生を尾行して、言葉一つで体の自由を禁じられ、殺し損ねた。
およそ最悪といって良い状況だし、何より恥ずかしかった。
これ、ユカになんて説明しよう。
「良いわ。罰を与えましょう。:命令:二時間後に硬直解除:」
そういって、訳のわからない女子高生は去っていった。
summer-完全思いつき小説-(仮) 文月 @triplet_sft0746
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