cap2-解体-感情-感傷-友情-

夕方になり、校門でみんなと別れる。

ユカとは方向が一緒なため、他愛もない話をしながら歩いていた。

ユカの顔を横目に見ながら、俺はそっとポッケの中のナイフに手を這わす。

壊れたら決して元に戻せない、この温かな非日常と、血なまぐさい殺戮の日常が交差する、俺の人生。


俺の家系は昔から、どこか外れている人間が生まれる可能性が高かったらしい。

あるものは異常変質者、つまり露出狂やらロリコンやら強姦魔だったり、腹いせに虫を殺しまくるキチガイや、お薬やらナイフやらが大好きでそれを蒐集する困ったちゃんなど、多岐にわたるハズレものが多い、そんな家系らしいのだ。

それだけならまだ色々な方法で解消できるかもしれないというようなものだが、残念なことに俺が持って生まれた異常性は殺人だった。

もちろん、ジョン・ウェイ・ゲーシーやアルバート・フィッシュのような快楽殺人鬼ではなく、いかにして早く相手の体にナイフを滑りこませることが出来るかという、一種のスポーツに近い。

例えば暗がりを一人で歩く若いお姉さん、夜中に一人で歩いている俺を心配して話しかけてくれる警察官、カツアゲを試みてくる大人気ないオニーサンなど、殺しやすい奴を殺すというのが秘訣なのだ。

独学で習得した人体の脆い部分に刃を通し、出来るだけ力を加えずに最速で解体する。どこかの殺人鬼のセリフではないが、「バターを切るように柔らかく」というのが当面の目標だ。

俺がこの異常性に目覚めてしまったのはちょうど去年、あまり思い出したくないことだが、山の中の公園で一緒に遊んでいた女の子が初めての相手だった。

もっとも当時ナイフなんて分かりやすいものはなく、その場にあった木の枝で済ませてしまった。

そこに快楽もなく、同じように後悔もなく。殺せるやつがいたから殺したという、それは俺が生まれ持って持ち合わせて来た当たり前の感情だった。

まさか12歳の子供がナイフ一本で人を解体できるなんて警察も思いつかないらしく、痕跡も残さないように努力した結果疑われるようなことは一切なかった。

親父は親父で夜な夜な高校生と肌を重ねている変態野郎だし、かあさんはかあさんで我関せずといった感じなので、俺が夜中に外出しても咎められることはない。

全く業な人生だとは我ながら思うが、しかしそんな俺にも人並みに愛情や友情なんていう感情も持ち合わせているのだ。

「好きな奴は殺さない」それが俺のモットー。

友達は大事にし、神に感謝し、日々の幸せを尊ぶ。どこにでもいる小学生、それが俺なのだ。


「ねえ、聞いてる?」

ユカの声にハッとして、思わずナイフから手を離す。

いけないいけない、ユカのバラされた姿を見たいと思うなんて、我ながらどうかしてる。

「ごめんごめん、で、今日はどうしようか?」

いつもと同じように、ユカと俺は今日の獲物の話を続ける。

そう、解体するのが好きな奴は、何も俺だけではないのだ。

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