逆ファッショニスタ大会の優勝者

ちびまるフォイ

なにを着るかじゃない、誰が着ていたかだ!!

全国からオシャレのすべてを集めてしのぎを削る「ファッショニスタ大会」



……の、会場の横で「逆ファッショニスタ大会」が行われていた。


「エントリーナンバー2! 今年こそは優勝なるかーー!?」


ランウェイを歩くモデル兼スタイリストの私は

審査員にアピールするようにゆっくり進む。


「すばらしくダサイコーディネートです!

 お腹にはお父さんの腹巻を巻きつつのスウェットスタイル!

 それぞれしっかり着込んで、ゴムもダルンダルンです!」


「今年こそ、優勝は私よ!」


腹巻を引っ張って、パンと音を鳴らした。

観客席からは「ダサイ!!」と最高の賛辞が贈られる。


「さて、チャンピオンはどんなコーデをしてくるのかしら?

 ま。今年の私のファッションに勝てるわけ……な!?」


挑戦者は思わず言葉を失った。


「あーーっと! エントリーナンバー1番!! 前回優勝者!!

 今年はオタクファッションに身を包んでの登場だーー!!」


大きなカバンにまかれたカレンダーが突き刺さっている。

こんなファッションで斬り込んでくるとは思いもしなかった。


「すばらしい!! 素晴らしいクォリティです!

 リュックで印象的なシルエットにしつつも、

 穴あきグローブにバンダナなど小物への配慮も忘れていません!!」


「今年も優勝はエントリーナンバー1、服美さんです!!!」


抜きんでたダサさを披露したチャンピオンが2連覇を遂げた。

ハンカチをかみちぎるような悔しさを味わった1年後。


「今年こそ……優勝してみせる!!」


ふたたび逆ファッショニスタ大会に挑戦した私は、あえてシンプルにまとめた。

ランウェイに登場するや、予想外すぎるファッションに観客は歓声通り越して静まり返った。


「エントリーナンバー2。な、なんということでしょう……!!!」


やっとこさ実況がありのままを伝える。


「学校指定のジャージだぁーーーー!!!」


あずき色のジャージにはデカデカと高校の名前が刺繍されている。

ゴテゴテとダサイ小物をつけるのではなく、大きくダサイ服装で勝負。


「素晴らしい!! あずき色もさることながら

 上着をズボンに入れている芋っぽさが高得点です!!」


「ふふふ、今年は必ず優勝すると誓っているわ。

 これだけで済むわけがないでしょう」


上着を脱ぐと、純白のTシャツが会場に輝いた。


「なんとなんと!! 中には学園祭で作ったクラスジャージだーー!!

 学園祭終わったらもう誰も着ないものをここで使うとはーー!!」


「究極のダサさは……思い出の中にあるのよ!!」


用意していた決め台詞も決まり、これまでにない確かな手ごたえを感じた。

次いで、前回優勝者の服美がランウェイに登場する。


「ふふん。どんな服を着てこようと、学校指定のジャージに……ええっ!?」


私はまたも予想を裏切られた。


「エントリーナンバー1、前回優勝者の服は……。

 なんだこれはーー!? 形容しがたい! なんという服なんでしょう!?

 というか、いったいどこで買ったんだーー!!」


実況は仕事を忘れて感情に任せて叫ぶほどのインパクト。

前回優勝者:服美の服にはチャックとベルトがあらゆる角度でついている。


まるで用途がわからないチャックとベルトに巻き付かれた服は全身黒色。

背中には羽のイラストが描かれていて、「enjel」と書かれている。


「こんな……こんな亜空間のダサさがあったんなんて……!!」


オシャレしようとしているのにダサイ。

これこそが、一番ダサく見える服装だと突きつけられてしまった。


最初からダサイジャージなんかは、予想を超えないダサさしかない。


「完敗よ……こんなことが……」


私は今年も負けてしまった。

大会が終わってからすぐに気持ちを切り替えて来年の対策をすることに。



「去年も負けて、今年も負けた……もう正攻法じゃ勝てないわ!

 先に相手のファッションを調べてやる!」


先に相手の挑戦する服装がわかれば、

それを一段階ダサくするだけで勝利がつかめる。


偵察に尾行に盗聴。

あらゆるスパイ技術で相手のファッションを入手しようとしたが

結局、1年経って大会が開かれるまでわからなかった。


「こうなったら大会前の控室をスパイするしかない!!」


全身タイツに身を包み、去年の優勝者の控室に向かう。

壁ごしに誰もいないことを確認してしのびこむ。


「こ、これは……!!」


ついに対戦相手のファッションを先に見ることができた。

大きな肩パッドと、時代錯誤のルーズソックス、なぜかローラースケート。


「だ、ダサすぎる……! とても勝てない……!」


これと同じファッションでやや小物でパワーアップ、なんて夢物語を信じていたが

単に全体のまとまりがなくなるだけの結果になる。

今年も完全敗北を悟った。


「帰ろう……もうみじめに負けるくらいなら……」


私は戦う前に戦意を喪失し、会場を後にした、

ファッショニスタ大会を見に行くたくさんの人と逆行しながら歩く。


頭の中ではもやもやと同じ問いかけが繰り返される。



――本当にこれでよかったの?



ここまで来るのに1人の力ではできなかった。

応援してくれる人がいて、アドバイスしてくれる人がいて。


それなのに……。


「やっぱり、ここで諦めるわけにはいかない!!

 私じゃなくて、私を応援してくれた人のためにベストを尽くさなきゃ!!」


帰りの電車に乗るところだったのを引き返し、会場へと急いだ。

とにかく慌てていたので、控室にもいかずにすぐに着替えてランウェイに登場。


会場からは「おお」とびっくり人間を見るような声があがった。


「これが私が見つけたダサいの真髄……! ダメージTシャツ!!」


無人島から戻って来たかのようなズタズタ加減のTシャツと頭には花かんむり。

左右で長さの違うジーンズでアンバランスさダサさを出しつつ、

真っ赤なハイヒールでガーリーなダサさを演出。


すべてを出し尽くし、私の大会は終わった。



「それでは結果を発表します!」



「優勝は……ダメージTシャツを着ていた、あなたです!!」


スポットライトが私にあたった。


「え、うそ……優勝しちゃったの!?」


「おめでとうございます。あなたがファッショニスタです」


「ありがとうございます! 諦めないでよかった!!」


とめどなく涙が流れてくる。

金色のトロフィーがついに私の手の中に納まった。


「……ん?」


トロフィーの台座に書かれている大会名が違っていた。


「あの、これって逆ファッショニスタ大会じゃ……」


「何言ってるんですか? その会場は隣ですよ」


この模様はテレビで中継され、雑誌にも紹介された。


 ・

 ・

 ・


「おまたせーー」


公園で彼女を待っている彼氏は、甘い声に反応し顔を上げた。


「えっ……無人島でも行ってきたの……?」


「まーくん、ほんとオシャレに興味ないんだね。今のトレンドなんだよ?」


その年、街の女性たちはみな漂流者のようなファッションになった。

私は今でも思い出し申し訳なさに胃が痛む……。

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