エピローグ

女神様のお告げ

 王国の魔術師が儀式の際などに使う、薄暗い広間にメイリンは一人佇んでいた。

 国王陛下のめいにより、王国の救世主となった勇者――タケルを能力アステルでこの場所で喚び出したのは、ついこの間のことだ。


「急に現れた時もそうだったけど、去り際にも驚かされちゃったわね……」


 その国の英雄たるタケルが祝宴の場で毒を盛られ、やむを得ず元の世界に戻っていった。タケルに誰か毒を盛ったのか、調査を繰り返しても犯人は分からずじまいで、タケルの存在と共に闇に葬られた。

 タケルが確かに国を救ったとはいえ、もうこの世界にいないのでは人々に英雄譚を伝えることもできないからだ。


 あれから結構な日数が立つけど、眠りについた巨竜――スィスモスが目覚める気配もない。一時的に国境を脅かしたセレーネの民も、休戦の交渉に応じた。ローデンベルクをどのように見ているのかは分からないが、魔獣の群れを蒸発させるほどの力を持った巨竜をしずめたことから、脅威として見られているのかも知れない。


「これで――また平和に戻るのね……」


 王国に平和が訪れたものの、メイリンの心は晴れなかった。言うまでもなく、タケルとの別れ際が原因だ。


 自分自身も悪気があってやった訳では勿論ないけど、タケルには何かと強く接してしまった。タケルを勇者だと信じようという想い、その想いにしっかりと応えてくれるタケルに、期待する気持ちが強くなってしまったことが原因だ。

 最期の別れ際にそれをびたものの、ちゃんと伝わっただろうかと気になってしまう。今となっては確認するすべもないのだが。


 タケルがどう思っているのか、今どうしているのか、知りたい。一人過去を想うように、この部屋に足を運ぶのがいつしか習慣になってしまった。


「もし叶うなら……タケルが今無事かどうかだけでも知りたい……」


 一人、暗い部屋でそう呟く。


「…………もう少し言うと、もう一度会いたい。会って話したい」


 本音を言うとそうだ。

 会ってどうする、という訳ではないが、ただただ単純にそう思ってしまう。


「いつまでも、何してるのかしら私――」

「メイリンよ……」


 自分しかいない部屋の中で、聞き覚えのある声が響き、ハッとなった。

 慌てて顔を上げると、部屋の中の中空に光が集まり、それが人の形のようなものを描き出していく。これも記憶にある。自分が初めて、能力アステルを授かった時と同じだ。


「メイリン。そなたの偉業を称え、今一度そなたの願い――それを力に変えよう……」


 目の前に現れた文字通り神々しい姿をした女性。自分もよく知った――女神様だ。


「女神様……一体どうして……偉業だなんて――私など、何もしてはおりません」

「異世界より、国を救った英雄を喚び出したことが、偉業でなくして何なのだ。メイリン、そなたは与えられた力を正しく・・・使った。それだけでも賞賛の価値はあるだろう」


 女神様は、感情を抑えたような声でそう言った。目の前で起こっていることが、話に聞く女神様より新たな能力アステルを授かることだとは分かっているが、どうして自分がという気持ちになってしまう。女神様はそう言うが、自分がやったことと言えば、周りに言われるがままにタケルを喚び出しただけだ。


「――よって、そなたに力を授ける」

「女神様、一体どんな力なんでしょう」

「それは、自身で知っていくが良い。メイリン、そなたが自分の運命を掴むための力だ」


 それだけを言って、女神様はすぐに姿を消してしまった。本当に新たな能力アステルを得たのだろうか。すぐには自覚が湧いてこない。


 なんということだ。

 すぐにでもダリウス様に確認しないと。


 そう思って儀式の間を出て、真っ直ぐにダリウス様の自室へと向かう。


 女神様が現れたことを報告しようというその前に、ダリウス様が新たなお告げ・・・・・・があったと言ってくる。


 前回とはまた別の。

 新たな危機が王国に迫る、と――――

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星の勇者さま 伊藤マサユキ @masayuki110

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