第2話 罪刀、懺悔

 俺の名は太宰治! この物語の主人公だ!

「幼女博士! 幼女博士!」

 ドンッと勢いよく研究室のドアを開けると、そこには白衣を着た幼女がいた。

 彼女は俺の声を聞くと「きゅるんっ」というかわいらしい擬態語と共にこちらへと振り返った。

「なんだい?」

 まぶしいほどの美少女が返事をした。彼女こそが幼女博士。天才美少女発明家である。

「俺、どうしても赦せない奴がいるんです! 知り合いのYoutuberの男なんですけど“非モテなんでクリスマスにダッチワイフとディズニーデートしてみた!”という企画の動画をサイトにアップしていたんだけど、その後話を聞いたら、カメラを持って撮影していたのはその男の彼女だったらしく、撮影終了後には普通にディズニーデートして、その後ラブホに直行したらしいんです! 非モテのフリをして彼女とセックス! これ以上の邪悪がありましょうか!」

 俺は興奮気味に、憎々しげに男の悪行を語った。邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。ふんふん、と幼女博士は頷き、口を開いた。

「おっけー! この天才工学系美少女、高村アインシュタインにおまかせあれ!」

 高村アインシュタイン。幼女博士の本名である。

 早速彼女は、道具を作り始めた。


 カーン……カーン……カーン……カーン……

 鋼を打ちつける音が工房に響く。かつて、戦国の世において、刀匠たちは鋼に真理を求め、ただ人を斬ることのみに特化した刀を無数に打った。現代に生きる少女もまた、そうした修羅のひとりとなったのだ……


「できた! “罪刀、懺悔”」

 パッパラパパパパーン!(発明品ができあがったときのファンファーレ)

 彼女が差し出したのは、漆黒の刃を持つ刀だった。

「えっ、刀!? 殺人っすか!? ……やってやりますよ!」

 殺人教唆する幼女、ゲロ熱ッ!

「まあ待て。この刀について説明するね。罪を斬る刀だから、罪刀(ざいとう)。これは概念を斬る刀であって、形而下の物、つまりは相手の身体を斬ることはできません。斬られた者はその人の抱える罪の重さに応じて心に痛みが走ります。罪が大きすぎるとあまりの痛みに膝を屈し、手を組んで必死に耐えようとする。その様が教会で懺悔するかのようにになる。ゆえに、懺悔。罪刀、懺悔」

 全然意味がわからねえ。もはや工学の範疇ではないだろ。

「試しにその刀で私を斬ってみてください。身体に傷ひとつつかないのはもちろんのこと、無辜なる私は心に痛みも走りません」

「エイヤーッ!」

 躊躇無く、言われてすぐに斬ってみた。幼女を斬れるチャンス。俺の前世は人斬りだったのかもしれない。

「ぐああああああああああああああ!!!」

「えっ」

 幼女博士が凄まじい勢いで苦しみだした。膝を屈し、耐えるように手を組む。それは懺悔の姿に似ていた。

「それほどまでに心を痛めるなんて、その歳でいったいどれだけの罪を重ねたんですか!?」

「うーん……おとなりの独裁国家の兵器開発に協力したのがまずかったかな……」

「なんでそんなことを」

「いや、謝礼に目が眩んだのもあるけど、私が金だけで殺人兵器を是とする賤しい美少女だと思われては困る。私には夢があるんだ。いつの日か核兵器を越える大量虐殺兵器を生み出し、私の名前のルーツであるアルバート・アインシュタインを越えること。そして、私の手で人類の終着点を作り出すこと。そのことによってしか、私は自分の人生に意義を見出すことができない。だから私は、兵器を作るよ」

 何が無辜なる私だよ、罪の総合商社じゃねえか。罪っていうか、もはや業(ごう)。

「しかも、別にアルバート・アインシュタインが核兵器を作ったわけではないんだが……」

「まあとにもかくにも、私のお陰で効果は実証されましたね! その調子であなたの気に入らない奴も斬り伏せてみてください!」

 俺は刀を受け取り、礼を言ってその場を去った。



 ~翌日の朝、幼女博士の自宅にて~

「ふわあ……あくびが止まらないよ。今日はオフの日にするって決めたし、とりあえずテレビでも見よーっと」

 幼女博士がテレビをつけると、キャスターがニュースを読み上げていた。

『……では、次のニュースです。昨夜20時頃、東京都北区で男が家に押し入り、家主の男性を日本刀で斬りつけました。家主の男性は日本刀で斬られ死亡。男は現場近くを血塗れで歩いているところを見回りの警官に取り押さえられ、殺人の容疑で逮捕されました。逮捕されたのは、都内に住む太宰治容疑者で、警視庁の調べに対し容疑を認め、“間違えて近くに置いてあった普通の日本刀を使って斬っちゃったよ、トホホ~”などと意味不明な供述もしており、現在犯行の詳しい状況や動機などについて取り調べています』

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