幼女博士

ボトムオブ社会

第1話 主人公、死す。

 俺の名は太宰治! この物語の主人公だ!

「幼女博士! 幼女博士!」

 ドンッと勢いよく研究室のドアを開けると、そこには白衣を着た幼女がいた。

 彼女は俺の声を聞くと「きゅるんっ」というかわいらしい擬態語と共にこちらへと振り返った。

「なんだい?」

 まぶしいほどの美少女が返事をした。彼女こそが幼女博士。天才美少女発明家である。

「幼女博士! 俺、めちゃくちゃ気持ちよくなりたいんです! 今、この瞬間に最高最大最強の快楽を味わいたい! そうでなければ生きている意味が無いし、そのためなら何を犠牲にしたって良い! だからめちゃくちゃ気持ちよくなれるマシーンを作ってください!」

 俺は感情が抑えきれず、まくしたてるように話した。

「おっけー! この天才工学系美少女、高村アインシュタインにおまかせあれ!」

 高村アインシュタイン。それが幼女博士の本名であり、完全なDQNネームである。工学徒なのに何故アインシュタインなのかとかそういう細かいことを気にしてはいけない。安易な天才キャラ付けである。

 早速彼女は最高に気持ちよくなれる機械を作り始めた。

 チュイーン! ジジジジジッ! カンッ、カンッ、カンッ、カンッ!

 ドリルで穴を空けたり溶接したりする音が聞こえてくる。

「できた! 名付けて、最大多数の最大快楽到達機・ベンサムくん1号!」

 パッパラパパパパーン!(発明品ができあがったときのファンファーレ)

「この機械について説明させてもらうね。快楽の最大量を享受できるマシーンです。このマシーンに座ると様々な欲求を同時に満たすことができます。J.S.ミルは質の高い快楽を得るべきだとか寝言を抜かしてたけど、やっぱり我々に真の幸福をもたらすものは快楽の質ではなくて快楽の量だよね!」

 完全に同意。質が大事だとか、インテリの吐く綺麗事は聞くに堪えないぜ!

「と、ところで、は、博士……博士は幼女なのに男を気持ちよくさせる方法を知っているんですね……ハァ、ハァ……」

「さぁー、では早速使ってみよう! はい、座って、こうしてこうして、スイッチオン! 満足な豚になっちゃえ~!」

 俺の発言はガン無視されて、機械が俺に素早くセットアップされた。ん……これは!

「んあああああああああッ!!!!!」

 椅子の突起部分から棒状の何かが出てきて尻の穴の中へと伸びていき、凄まじい勢いで前立腺を刺激した。そしてさらに。

「むっ、これは! ハムッ、ハフハフッ、ハフッ!」

 目の前にステーキとライスが現れ、俺の口の中へと運ばれた。まさか、性欲と食欲を同時に満たしてくるとは! しかしもうこれ以上は何も無いだろう。そう思っていたのだが……

「き、君は……?」

 目の前に申し訳なさそうな水商売風の女の立体映像が現れた。そ、そうか、どうすればいいのかわかったぞ!

「君! いつまでこんな商売をしているんだ! 早く足を洗いなさい!」

 説教! 俺は水商売風の女に説教をした! そう、これは性欲を満たすと同時に女に説教することによってマズロー的に高次の(社会的には本当に低劣な)欲求を満たすことができる、説教用映像! 風俗でセックスした後に嬢に説教するのは、最大の快楽なのだ!

「最高だ! 最高だよ!」

 テンションMAXになっている俺に、博士はボタンを手渡した。

「これ出力調整用のボタンね。出力が大きいほど気持ちよくなれるけど、出力を最大にすると大変なことになるから気をつ」

「出力最大、スイッチオン!」

 もはや俺の勢いは止まらない。博士が話し終わる前に、忠告を無視して躊躇無く出力を最大にしていた。これが今を生きる若者の刹那的生き方だよ!

「おあっ! おあっ! あおおおおあああああああッッッ!!!」

 凄まじい快楽が俺を襲う。前立腺への刺激は最大を極め、ステーキはA5ランクの肉に、ライスはこしひかりになり、映像の水商売女は最高にもうしわけなさそうな顔をしていた。

「おぼっ、おぼっ、おぼっ」

 マシーンの暴走が始まった。前立腺を刺激している棒は勢い余って俺の腸を尻穴から引っ張りだし、さらには胃を、全ての内臓を対外へと引っ張り出した。俺の臓物、胃の内容物、腸の中の糞便がその場にぶちまけられる。

「あぶぶぶぶぶぶ……!」

 自分があとわずか数秒で絶命することがわかった。しかし俺には一片の悔いも無かった。最高最大最強の快楽を味わえた、ただそれだけで俺の人生は満たされた。幸福。これこそが幸福なんだよ。

「あーあ、汚い花火だなぁ、もう」

 幼女博士のその言葉が、俺の人生で聞いた最後の言葉だった。

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