11


 エルシェントの遠征隊を待つことなく、ハリーは出発を決意した。出発前日には、もう一度ホルクと相談し彼の同意を得ようと部屋を訪れた。

 手紙がであることで一刻も早く向かう必要がある、とホルクに説得を試みた。彼は渋々と同意した。


 出発の日。

 ハリーは、まずベータシェルターがどうなっているのかを確かめようと、隊員たちと話し合った。既に、先発隊のメンバーは到着している頃であった。入れ違いになるかもしれないし、向こうのシェルターで合流できるかもしれない。そんなことを考えながら、東の山脈までのルートを隊員たちとディスカッションを行う。


 ハリーは準備が整うまで、キャサリンと大喧嘩をした。キャサリンが受け取ったとされる義姉あねフリージアからの手紙のことである。彼女はどうしても姉フリージアに逢いたいと訴えたのだ。彼女の華奢な体では、猛威を振るう雪原に対抗できないだろう。エルシェントがいないまま、彼女を危険な旅に巻き込むわけにはいかない、雪原をあなどってはいけない、死なせたくはないと激しく怒鳴ったことが原因だった。それでも彼女は聞く耳を持たなかった。彼はつらい顔で、眼をらした。


 今、この瞬間出発してしまったら、日の光りをみるまで帰ってくることはない。彼はそう固く誓った。長く険しい旅になるかもしれない。

 自分の身はなんとか守れるが、彼女まで守れる自信がハリーには持てなかった。自分には、ちからが足りないのが唯一の気がかりだった。彼の気持ちを察したか、ホルクが無理やり彼女を引き離した。本来ならエルシェントと共についてくるはずが、こんなことになるとは、想像していなかった。

 参加できない事を悟ると、シェルターの奥へと彼女は離れていった。暗闇に消えていく彼女を無言で見送ると、ハリーは目の前の現実に向かって歩き出した。


(生きて、きっと、ここに戻る)


「まず、最初の目的地はだ!」

 言葉を胸に刻み込み、白銀の大海原へと歩み始めた。


                      第一部 完 第二部へつづく

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Snow Dystopia 第一部 芝樹 享 @sibaki2017

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