遥か彼方のあなたへ

ミロク

第1話エピローグ・ゼロ

階段を上る。


螺旋階段を、上る。


周りは壁、上には何も見えない。


ただ階段があるだけ。


俺はそれを上って行くだけ。


登る。


登る。


登る。


ただひたすらに、登る。


不思議なことにしんどさはない。


俺は知っているから。


これが夢ということを。


そして終わりはいつも同じ。


俺が立ち止まると、〝それ〟はいつもどこからか語りかけてきた。


「今日はここまでだね…サツキ…。じゃあね。」


これだけを毎晩発して、その気配はなくなる。


それを毎日繰り返す。


いつまで上がれば終わるのだろうか。


「これが俺にできる贖罪なのかもな…」


そう、すべては守れなかった俺の———————————————


カツカツカツ


まだまだ登り続けていると、今日はいつもと階段の様子が違った。


「なんだあれ…?」


扉のようなものが見える。


ゴールだろうか?


扉に走って近づき、ドアノブに手をかけて引っ張った。


次の瞬間、目の前が真っ白になって————————————————




————————————————————「おーい、サツキ!起きろよ!」


視界が徐々に広がる。


ここは…?どこだ…?


見たところ教室のようだ。クラスメートも数人いる。


黒板には日付が書いてあった。


「…………!!!」


それを見ただけで目が覚めた。


「いつまで寝てんだよ!もう終礼終わったぞ!」


クラスの委員長が、笑いながら話しかけて来たがーーーー


「どけ!!!」


俺は委員長を押しのけ、クラスから飛び出した。


「えっ!?」


困惑した様子の委員長の声を背中に受け、教室横の階段を上がる。


目指しているのは屋上。


日付を見てわかった。


今日は————


20××年5月6日


俺の———————-


俺の彼女だった夏菜子の—————————————————————


「ハァ……ハァ………」


ようやく、屋上のドアが見えた。


勢いをそのままに、ドアをこじ開ける。


バンッ!!


「夏菜子!!」


声を張り上げた。


夕暮れ、灰色のタイルといくつかの電灯——————


そしてその奥、紅く黒く光る太陽に重なるように柵に腰を掛けている人がいる。


夏菜子だ。


「夏菜子…!!」


「やぁ…サツキ。かなり急いで来たみたいだけど。どうしたの?」


その表情を見てわかった。ここは現実ではない。


そして彼女はやはり——————


「夏菜子…もうやめてくれ…」


「何を?私は何もしてないよ?」


「お願いだ…もうこれ以上、俺を苦しめないでくれ…!!」


夏菜子は柵の向こうの幅30センチほどの飛び出た所に立った。


「どうしたのサツキ?私よ?あなたの彼女の夏菜子よ?」


「違う…違う…!違うッ!!」


「お前は夏菜子じゃない…!夏菜子は…!!」


「もう死んだんだ!!!」


そう、今日20××年5月6日、夏菜子はこの屋上から飛び降り自殺したのだ。


理由は不明。


夏菜子はもういないはずなのに———————


「つれないこと言うね。私見たよ?サツキが墓の前で言った所。

守れなくてごめん。理解してやれなくてごめん。次は守ってみせるからって言っ

たのを。私、死んじゃったけど今でもサツキのこと好きよ?あなたに会いたいと

思ったからこうして今いるの。」


「でもここは、現実じゃない!」


「そうよ。でもここはあなたが作ったのよ?あなたが自殺する前の私に会って止め

たいと願ったからできた世界よ。で、どうするの?」


「…?」


「私を止めれる…いや、〝守れる〟の?別に私が自殺した理由はサツキに関係ないことだったよ?でもサツキは泣きながら墓の前で言ったんだよ?〝守る〟って。」


「……!…それは………。」


「……………ダメだね。やっぱりサツキには無理だったんだよ。あの日も。」


彼女が一歩踏み出した。


「違う!!待て!待ってくれ!!」


「それじゃあね。サツキ。」


「夏菜子ッッ!!!」


手を伸ばしたが間に合わない。


彼女はゆっくり、全てを受け入れるように両手を広げ、落ちて行った。


「ああ…夏菜子……夏菜子……ごめん…ごめん…ごめん……」


俺は最期まで見る気になれず、その場に膝をついて哀号していた。


—————————————————————————————————————


数分たった後、ふとあることを思いついた。


そうだ


死んでしまえばいい


ここで、夏菜子が死んだここで死んで同じ苦しみを味わおう


それが一番の贖罪だ


そう考えた俺は、夏菜子が先ほど飛び降りた所に行った。


「………。」


空は驚くほど綺麗な紅だった。


時々吹く風が、この世の無常を語っているようだった。


その風景を一瞥した俺は、夏菜子と同じく両手を広げてーー飛び降りた。


風が頰を横殴りにしていく。


これから死ぬと言うのに、何故か笑みが浮かんできた。


飛び降りて今始めて感じたことがある。


「こんな気分だったんだろうな、夏菜子。」


この言葉を発したその瞬間、地面が歪み、下に灰色の壁と螺旋階段が見えた。


間違いない、あの螺旋階段だ。


俺は今まで登って来た階段の真ん中を、落ちていっている


俺は何がしたかったのだろう。


何故階段を登り続けたのだろうか。


今頭に思い浮かんでいることを上手く言葉にできない。


葬式の時、俺は本当に次は〝守る〟つもりだったのだろうか。


そうすることで、自分に酔っていたのではないだろうか。


今になってようやく、自分を外側から見直せる。


でももう遅い。


夏菜子は俺の前で飛び降りた。


今度は間違いなく俺の罪だ。


これでよかったんだ。


これが俺に出来る事だ。


気がつくと視界はもう真っ暗になっていた。


ああ…もうすぐ終わるな…


走馬灯のようなものが浮かぶ。一番多いのはやはり夏菜子との思い出だった。


他のことはどうでもいい…


ただ…


ただ叶うのなら………


俺の願いは一つ———————————





「もう一度会いたかったなぁ……夏菜子。」


























「ええ、そうね。

また階段を登って来てね。屋上であなたが私を守ってくれるその日を待ってるわ。いつまでも待ってるから……。…大好きよ、サツキ……。」






End





























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