第20話 狂乱の襲撃

申し訳ございません、また暫く更新が止まります。ご迷惑をお掛けしますが、何卒宜しくお願い致します。


◆◇



「――ギャオオオオオオオオ!!」


 街道を挟んで四方八方から響く咆哮。一つや二つではない、軽く十は超えている。俺は金重かねしげを素早く抜剣し全身に力を入れた。


「ちっ、森林地帯に入った途端に来るとはメンドクセェ!」


 街道を囲む木々を睨み付けながら舌打ちをする。不幸中の幸いなのはガチで深い森ではないって事だな。


「グアッ!」

「ふんっ!」


 樹木の影から飛び出してきたのは一体の鉤竜ガプテル。自慢の鉤爪を振りかざし猛然ととびかかってきたそれを、俺は無造作に一薙ぎした。


「ギャッ!」


 鉤爪が俺の喉笛に届く事はなく、鉤竜ガプテルは身体を両断されて遠くへと転がる。この時点で、俺は現れた鉤竜ガプテルに異常が起きている事に気付いた。


「……随分とパワーがあるな」


 手に残る感触から、襲いかかってきた鉤竜ガプテルの膂力が通常より明らかに上昇しているのが分かった。

 筋トレでもしたか? いやいやそんな訳はない。パワーアップのトリックは、鉤竜ガプテルの死体に生えている――紫色の結晶にあるだろう。


「ふっ!」


 ザンッ! と斬撃音が聞こえた。視線を動かすと、コトハが鮮やかな手並みで二体の鉤竜ガプテルの首を刎ね飛ばしていた。


「ナイスゥ!」

「油断したらあかんよ、まだまだ来る!」


 おっといかんいかん、ちょいと気が抜けた。取り敢えず最優先は御者のおじさんと鉤竜(ガプテル)車の安全確保だ。紫等級四人いて民間人に負傷者なんか出したら話にならん。


「リーリエとラトリアは鉤竜ガプテル車の側で防衛と支援に回ってくれ、俺は前に出る! コトハは遊撃頼むわ!」

「はい!」

「りょーかい」

「ん……」


 各々の動きを決め、即座に行動する。


「気をつけろよ、こいつらダグザさんの話してた“結晶持ち”だ! 普通の個体よりパワーとスピードがある!」

「了解! 【加速アクセル】・【膂力強化ストレグフォース】・【感覚強化センスフォース】!」

「……狙い、撃つ」


 リーリエの魔法が発動し、身体が一気に軽くなり筋肉が歓喜の声を上げる。駆け出した俺の背中を魔導炮カノンから放たれた魔力弾が追い抜き、遠くから猛然と走り寄ってきていた小型のドラゴンを撃ち抜いた。


鉤竜ガプテルだけじゃねぇな、てんでバラバラだ」


 群がってくるドラゴン達を薙ぎ倒しながら俺は注意深く観察する。

 襲いかかってきているのは皆例外なく結晶持ちのドラゴンだ。ただ種類が多い、普通なら有り得ない組み合わせばかり。

 肉食と草食、捕食者と捕食対象。それらのドラゴン達が互いを一切意識せず只管俺達を目指して突撃してくる。


「意図して手を組んだ訳じゃない。こいつらを我武者羅に突き動かしてるのは……憎悪・・、か」


 全身に突き刺さる夥しい数の殺意。ぶっちゃけ俺的には身体的な異常よりこっちの方が気になる。


「この憎悪を引き出してるのは間違いなくあの結晶だろうなぁ……」


 白目を剥いて全力で突進をしてきたのは、輓竜ばんりゅうとして人間に使役されている個体も存在するアケロス。

 普段草を食べている温厚なドラゴンの面影は無い。重量級のボディを活かして俺を轢き潰しに掛かってきた。


「オルアッ!」

「グッ――」


 目前まで迫ったアケロスの頭を、俺は右手の金重かねしげで叩き潰す。ぐしゃりと鈍い音を立ててアケロスの巨体が地面に沈んだ。

 しかし、間を置かずアケロスの死体を飛び越え二体の鉤竜ガプテルが猛然と襲いかかってきた。


「だああ! 何なんだテメェらは!」


 抗議しながら俺は左手の金重かねしげ鉤竜ガプテルを二体纏めて両断する。

 ここに来て俺はこのドラゴン達に得体の知れない不気味さを感じ始めていた。恐怖ではない、ただただ気味が悪いのだ。


「リーリエ、コトハ、ラトリア!」

「「「!!」」」 

「こいつらは決死隊だ! 自分の命なんか省みずに特攻しまくってくる! なんつーか戦いの心構えが普通のドラゴンと全然違うから用心しろ!!」


 声を張り上げて警告をしながら、俺は戦闘を続ける。

 ドラゴンだろうが人間だろうが、自分達より強い相手には萎縮する。野生の生き物ならばその辺の線引きは人間より更にシビアで、敵わない相手だと判断したら即座に逃げて生き延びるのを優先するものだ。

 しかしこいつらは違う。闘気を一切隠していない俺相手にも問答無用で突撃してくる。小型種や草食性の中型種のドラゴンには逃げられないように気配を消して動く事を普段からやっている俺からすると全く未知の経験だ。


「本能を塗り潰して命すら投げ捨てさせちまうレベルで俺達への……いや、人間への憎悪が増幅されてんのか。こりゃ予想以上に厄介だな」


 今起きている異変は、どうやら想像以上に難しい問題らしい。金重かねしげの柄を握り直した俺の脳裏に、ダグザさんの話していた――黒い竜の存在が横切った。

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山育ちのドラスレさん ~異世界でドラゴンスレイヤーとして生きていく~ 茂野らいと @lanlanlanbuta

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