第29話 空の都市4

 隔壁の向こうは機関エリアだが、トーラスは壁を越えることができない。

 仕方ない。トーラスは管制室に向かった。

 どこもかしこも大混乱だった。

 脳内の通信ラインにいくつもの情報が流れる。すべてを把握するのは不可能だった。警報級のラインを切ることはできない。なんとか理解しようと、多くの人が棒立ちになっている。異様な光景だった。

 振動は収まったが、警報は鳴り続けている。

 トーラスは、すべての情報を無視した。管制官であることを心からよかったと思った。管制官は、流れ続ける情報の中でも任務を的確に果たせるように訓練されている。

 管制室では、同僚達が、一般の人と同じようにうろたえていた。

「どうなってる!?」

 トーラスは叫んだが、返答はない。ビッテは黙っている。誰もが呆然と首を振るばかりだった。

 ありとあらゆる警報が出ていた。

 壁面のモニタには、都市の様子が、切り替わりながら映し出されている。その画面のひとつをみた誰かが叫んだ。

「見ろ!」

 空中都市の上層部、いくつもの高層の塔のいくつかが崩れ落ちている。

 管制官たちの顔色が変わってきた。

「………………落ちる」

 落ちるぞ!!!!!

 叫んだのは誰だったか。

 そこからは大混乱だった。管制官たちは、我先に管制室を飛び出していった。どこへ行こうというのか。逃げる場所はないのに。

 トーラスはブースに座った。

 機関エリア周辺の見取り図を入念に調べる。道を探す。


 トーラスは夢中で道を探していた。

 気がつけば、管制室には幾人もの黒っぽい服の人たちが動いている。

「あんたたち、誰だ?」

 返答はない。

 彼らの徽章をみて、トーラスは理解した。上層部に属する警備隊だ。この都市を支配している権力者たちが独自に編成した集団。滅多にお目にかかるものではない。

「どうするつもりだ」

 黒い服の者たちは、無言だった。その動きは迷いもなく冷静だ。

 トーラスはいくつものモニタから、情報を読み取った。

 それは、トーラスには考えも及ばないことだった。

「無茶だ……」

 彼らは、空中都市を、故郷の宇宙に移動させようとしている。

 それには膨大なエネルギーが必要のはずだ。

 今、動力部では、何事かが起こっている。正常に動いていない状態で、必要なエネルギーが得られるはずもない。

 トーラスは叫んだ。

「動力部に通じる道を開けてくれ!動力部では、何かが起こってる。俺が確かめてくる。頼む、開けてくれ!」

 黒服の者たちは動きを止めた。

 おそらく、指示を受けている。

 トーラスは息を止めて待った。

「よし、行け」

 トーラスは走った。


  

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さよなら、世界 まりる*まりら @maliru_malira

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