「いいね❤️」が欲しい。
神保 勇
1章 -SNS上のわたし- ①
「ハァ〜」
少し、呆れてしまった。
ため息をつくと口から白い息が出た。
待ち合わせ時間の5分前に、30分遅れることを連絡するなよと思いながら、遅れてくる友人を待つのには時間がある。
『柊しおり』は駅のすぐ近くにあるカフェで待つことにした。
店内は一人で入るにはちょっと勇気のいる小洒落た雰囲気で、同い年くらいの女性客で賑わっている。
店員に「何名様ですか?」と聞かれ人差し指で1人であるとサインを送り席へ案内された。
コートを椅子に掛け座ると右隣の席から騒がしい黄色い声が聞こえる。
「は〜い。撮るよ〜」 パシャッ!!
女子大生らしき3人組みがパンケーキと一緒に自撮りをしている。
「ちょっ、見せて〜。えっ!全然盛れてないじゃーん。」
盛れていないとは、おそらく自分が可愛く写真に写ってないという意味だろう。
咲から「直接相談したいことがあるんだ」と言われ今日原宿に呼び出された。
呼び出したのにも関わらず待ち合わせ時間の5分前「ごめーん。電車が遅延しちゃって30分遅れる。」と連絡をもらい今に至る。
まっ、おそらく電車の遅延なんて嘘だろう。
電車の遅延で遅れるなら、もっと早く連絡がきてもいいはずだ。
恐らく準備に時間がかかり家を出るのが遅くなったかギリギリまでベットとお友達だったかだと私は思っている(笑)
咲とは英文学部全体で開かれた新入生女子会で知り合い、酔いつぶれ終電を逃してしまった咲を自宅に泊めたところから始まりもう3年の付き合いだ。
咲は、いかにもおじさんから好かれそうな童顔で若干ぶりっ子ではあるが、某人気アイドルグループにいてもおかしくない可愛いさだ。
しかし、この可愛さは他の女子から妬みを買ってしまう。
そのため、新入生女子会でも標的にされ無理にお酒を飲まされたのだろう。
店員がお冷やを持ってきたところで、メニューも見ずにホットカフェオレを1つ注文した。
パシャッ! パシャッ! パシャパシャ!!
咲に「駅近のカフェに入って待っている」と連絡を返していると隣からまた黄色い声とシャッター音が聞こえてくる。
どんだけ写真を撮るんだよ!!
私は食べ物の写真なんて撮らないし、自撮りなんて恥ずかしくてできない。
しかも、撮った写真をSNSに投稿して自分から他人に見せびらかすなんて考えられない。
流行りのSNS「Insutabook」
私の通っている渋谷女子大学略して『渋女』
渋女の9割くらいはやっていると思う。
ちなみに、私は残り1割のやっていない側だ。
なぜ、そんなに写真を撮ってそれを投稿するのが楽しいのか私にはわからない。
けど、私の周りでやってない友達はいない。
これから会う「咲」もやっている。
ホットカフェオレをすすりながら「Insutabook」がなぜ周りで人気なのか考えていた。
* * *
「しおりごめ〜ん。待たせちゃったよね。」
「いいよいいよ遅延なら仕方ないって(笑)」
咲は走ってきたのかスマホの画面を見ながら前髪の分け目を整えている。
そして、コートを脱ぎ咲が私の向かいに座った。
店員がお冷やを持って来たタイミングと同時に、メニューを見ながら「お腹空いてない?」と聞いてきた。
「ちょっと空いてるかも」
すると咲はメニューの表紙に写っている「季節限定」と書かれたパンケーキを指差した。
「シェアしない?」
「この季節限定のパンケーキを!?」
「うん。これインスタ映えするから頼みたいんだよね(笑)」
咲が少し遠慮がちに頼んできた。
おそらく私が「Insutabook」をやっていないからだろう。
「いいよ。シェアしよっか!」
内心お腹は空いているが、パンケーキを食べる気分ではなかった。
でも、隣の女子大生3人組が頼んでいたのを見て多少気になっている自分もいた。
咲が呼び鈴を押すと店員がすぐに来た。
「ホットミルク1つと、季節限定のこれください。」
「かしこまりました。ご注文を確認いたします。ホットミルク1つと季節限定スノウミルキーストロベーリーパンケーキ1つ。以上でよろしいでしょうか?」
「はい。」
こんな長いカタカナの名前をよく言えるなと感心した。
私もカフェでバイトをしているがこんな名前の長いものはない。
店員が行ったところですぐに「聞いて!聞いて!」と大きな声で言われたため少し驚いた。
「真斗が最近怪しいんだよね」
「何かあったの?」
真斗とは咲の彼氏。
確か4ヶ月前の夏に合コンパーティーで知り合い、気があったのか出会って1週間という速さで付き合い始めたと言う。
会ったことはないけれど咲から写真を見せてもらったり、のろけ話をたくさん聞かされていたためどんな人かある程度想像はついている。
写真で見るとジャニーズ系のカッコイイと言うよりは可愛い感じだった。
そんなことより見た目はいいとはいえ、出会って1週間で付き合うことが私には考えられない。
しかし、最近の女子大生は気になってなくとも「これから好きになれるかも」という理由でとりあえず付き合ってみるというのが一般的らしい。
「うん。最近、真斗連絡が遅いいんだよね。」
咲の怪しいと言う理由が漠然としていたため、なんて返したらいいのか考えた。
「他に、怪しいところは?」
「今のところはないけど。。」
「じゃっ、もう少し様子を見たら?」
「しおりが言うならそうしてみるね」
相談事は注文したパンケーキがくる前にあっさり終わってしまった。
彼氏よりもパンケーキが待ち遠しいのか表情が柔らかい。
しおりは、咲の性格をわかっていたためこうなるだろうと予想はしていた。
それにしても、わざわざ原宿まで呼び出されたから多少相談らしい相談だと思っていたため「はぁ〜終わっちゃったよ」と呆れるを通り越し笑ってしまうような変な気持ちになっていた。
「早くパンケーキこないかな!!」
さっきの相談がなかったみたいに、咲は子供みたいにはしゃいでいる。
店員がホットミルクを運んできた。
咲は、運ばれてくるとすぐカップに口をつけ「アチッ」と言いながらもホットミルクをすする。
カップを置き、私を見て言った。
「しおりは、彼氏作らないの?」
「作らない!!」
しおりは即答した。
「どうして?しおりは美人だし、スタイルもいいからモテるのに。。」
確かに自分でも容姿の偏差値は高いと思っている。
渋谷に行くたび男性から必ずと言っていいほど声もかけられる。
しかし、男に興味がないのだ。
いや、興味がないというより恋愛感情が湧かないと言った方が正しいかもしれない。
「興味がないんだよね。」
「いいね❤️」が欲しい。 神保 勇 @jin5
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。「いいね❤️」が欲しい。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます