7.俺達は殴られない。
旨いなーここのコーヒー。さすがオシャレなだけある。
「な、なによ。欲しいの?」
じっと見つめていたせいか椎奈が怪訝な顔をしている。
「べ、別にー?欲しいとかじゃないけど?美味しそうだなーって思ってただけだし?一口ぐらい味見してもいいかなーって思ってただけだし?」
「あー、くどい。欲しいなら素直に欲しいって言えばいいのに。ん」
一口分すくわれたチョコレートケーキが俺の目の前に差し出された。これってその…間接、なんちゃらになっちゃうんじゃないですかね椎奈さん。
「食べないの?」
なんでこんなときだけ心読まないんだよっ!読んでよ察してよ。顔が熱い。言うしかないかなー。
「か、かかかっ、間接キ……とか気にしねぇのか…?」
そっぽを向きながら言うと、椎奈がはわわっと慌てた。珍しいな。
「ば、ば、バカじゃないの⁉︎なんでそんなの気にするのよ⁉︎恥ずかしくなってきたじゃない……」
ははっ、おもしれー。
「キスだぞキス。俺は気にしねーけどなーはははっ」
「じゃあ……はい」
スプーンがグイッと近づけられる。椎奈も顔が真っ赤だ。相当無理しているらしい。ちなみに俺も真っ赤だ。椎奈の軽く100倍くらいは無理している自信がある。
「……え、ちょっとまだ……心の準備が……っ」
スプーンがあとわずかで俺の唇へ触れようとしていたそのとき。
──ドゴォォン‼︎‼︎‼︎
とてつもない衝撃音が店内に鳴り響いた。
俺たちが座っている席の近くの壁にポッカリと穴が空いている。
その前方、ゴミ箱やらトレイ回収の棚やらがあるところにそれは立っていた。
それは人型をしていたが全身がゴツゴツと岩のようなものに覆われた怪物のようだった。
「きゃあああ‼︎怪物!怪物!」
誰かの悲鳴が店内を一気にパニックに陥れた。
一気に人が逃げ出す。もちろん店員もだ。店内に残っているのは俺と椎奈のみ。俺は何が何だか分からず立ち尽くしていたら逃げ遅れた。ははは、どうしよ。椎奈だけでも逃がせねぇかな。
「………あなたっ!指名手配犯の
「おう嬢ちゃん。俺のこと知ってんのか。ははーん、PUの犬ってことだな」
岩男は殺意のこもった目で椎奈を見下ろす。ちょ、危ないって近いって。
「そっちの坊主は……」
「逃げて誠士郎。数分は稼ぐ」
冷ややかな声音で俺に告げた椎奈は戦闘態勢に入る。
「はぁ⁉︎バカお前死ぬぞ⁉︎」
いくら空手黒帯の椎奈でもあんな化け物相手に勝てるわけがない。なにかっ、なにか時間を稼げるもの……。
「お前みたいな奴がこの俺に数分持つわけないだろ。そっちの坊主の言う通りだ。ほら、膝が笑ってんぞ」
岩男は嘲笑する。勝ちを確信しているようだ。対して椎奈はかなり動揺している。無理もない。ヤツは恐らくパワー、防御重視の異能者だ。
「誠士郎‼︎早く逃げて‼︎」
「お前べっぴんだなぁ。ははっ、気絶させたあとなにしてやろうか」
「なに、言ってんの変態っ‼︎」
ノーモーションからの椎奈の上段蹴りが炸裂する。が、案の定全く通用していない。
「どけっ‼︎椎奈っ‼︎」
近くにあった椅子を投げつける。椎奈はうまくかわす。岩男に命中する。ゴッと鈍い音がしたが、岩男は涼しい顔をしている。
「はっ、痛くも痒くもねぇ。坊主、先にあの世へ送ってやるよ。こっちの女もゆっくり
いかにも悪役なセリフを吐いたあと、岩男はドシンドシンと俺へ向かって走る。やべぇなこれ、どうしよ。
チラッと椎奈を見るとこちらへ走ってきている。そしてズザアと俺の前に滑り込み、立ち塞がる。丁度、岩男が拳を振り上げたところだった。
バカお前っ、殴られるッ……‼︎
俺は、椎奈が殴られぶっ飛ばされてしまうところを想像してしまった。
世界最強の異能者は決意した。 安芸天聖 @Aki-hima727
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