6.俺はもう行かない。

 俺が迷わずYESを選択したあと、俺と椎奈はPUを出た。


「………ほんとに、良かったの?」


「自分から言ったくせになんでそんな不安そうなんだよ……やめろよ後悔しそうになっちゃうだろ」


 俺はうへぇとわざとらしく肩を落とす。


「ふふっ、あんたのそういうとこ結構好きよ」


 ニッコリと、弾けたような明るい笑みで、椎奈は言った。やめろよ勘違いしそうになっちゃうだろ。


「いや、れ、恋愛的に好きとか、異性として好きとかそんなんじゃなくて!!!!」


 椎奈の声が住宅街に反響すると、少し前にある家で布団を取り込んでいたおばさんがこっちをニヤニヤと眺めていた。なになに怖いんですけど。そんな「あらやだ青春?」みたいな目で見るのやめてください。


「そ、それはそうとまだ夕方ね……」


 椎奈がソワソワしだす。クリクリと前髪をいじり、テクテクと歩調を早める。やがて決心がついたように俺の真ん前に仁王立ちになり立ち塞がった。


「か、かかかカフェでも行かない?ほら、ちょうどそこにあるし」


「ん、そうだなぁ。でもバーゲンダッツ2個買わねぇとだからなぁー」


 俺が間延びした声で言いつつ横目で椎奈を見やる。ジト目だジト目。


「あ、そうね……じゃあ、あそこのカフェで600円のチョコレートケーキ奢ってくれたらチャラにしてあげる」


 あれれーおかしいよー?バーゲンダッツ2個より値段が高いみたいなんだけどー?

 俺が内心で頭脳は大人な少年名探偵の真似をしている間に、椎奈はたったかそのカフェへ行ってしまった。





 店内はかなりオシャレだった。

 オシャレとしか言い表せないぐらいにはオシャレだった。なに、あの多肉植物。


「誠士郎は何にするの?」


「コーヒー」


 椎奈が呆れ返る。


「コーヒーにも種類あるでしょ……?」


「アイスカフェラテ砂糖なし」


 俺が無表情なせいか、椎奈は若干困っていた。


「あんたさ……緊張してるの?」


 …………。黙秘で。


「うわぁ……たかがカフェでこれとは……デート来たときとかどうすんのよ」


「じゃあ、俺にデートするような相手を紹介してくれよ!!!!嫌なんだよもうひとりでクリスマスの商店街歩くの!!なんであんなときだけリア充ばっかりいんだよ。いつもはおっちゃんおばちゃんぐらいしか通ってないじゃん!!なんでふたりマフラーとかやってんの?バカなの?どっちかがコケたらもう一方もコケるんだぞ?」


 周りからの視線が痛いが、溜まりに溜まった思いはそう簡単に止まりはしない。んだよあいつら、毎年毎年イチャコラしおって……!!!!


「早く注文してよ!!馬鹿じゃないの!?」


 椎奈が慌てて止めに入る。それでようやく俺は収まった。


「アイスカフェラテ砂糖なしとカフェモカ、それからチョコレートケーキで」


「か、かしこまりました……。コーヒーのサイズはMでよろしいでしょうか?」


 あーあ。絶対やばいやつだと思われた。めっちゃ警戒してるもん。顔に「キモい死ね童貞」って書いてあるもん。


「はい……」


 この駅前のカフェはもう来ないと強く決意したのは言うまでもない。








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