5.俺は迷わない。
今俺はどこにいるでしょ〜か。
正解は〜
「どりゃぁッ!!!!」
「ぬんっ!!」
剣の軌跡と
「すごい迫力でしょ?ここで対異能犯罪の訓練が行われているの」
「……」
うん、すごい迫力。目の前だもんね。これうっかり死んじゃうかもね。
どうやら俺は局長室から連れ出されたあとPUの見学をさせられているらしい。
さっきは食堂かなんかを見た気がする。ぼーっとしててあんまり覚えてないけど。
椎奈は、俺をどうでもよさそうに一瞥したあと俺を近くにあったベンチに座らせた。
「あ、あれがさっき言ってたLv.85の人ね。あんたもしごかれるんだからしっかり観察しときなさいよ」
……んん?今さらっと不穏な事言われたような……
「おい、どういうことだ。なんで俺がしごかれるんだ?」
「え?PUで働くんでしょ?」
椎奈は前髪をくりくりしながらこちらをちらっとだけ見る。
「え、俺情報管理局じゃないの?」
俺が言うと、椎奈はさらにくりくりのスピードを上げた。ていうか距離近いな。なんか柑橘系のいい匂いするし。
「えっと……言ってなかったか。あんたにはどっちもしてもらうの」
えっと……ウルトラハイパー意味わからん。
「PUでは能力をもとにどちらの局のどの課に属するかを決めるの。で、あんたはその適性すべてに該当したから……」
目の前ではおっさんとおっさんが激しく拳と剣をぶつけ合っている。うわ、今あっちの人吹っ飛ばされた。痛そうだなぁ。
「聞いてるの!?」
俺の頬をつねると、椎奈は不機嫌そうに唇を尖らせた。
「……あ、悪い悪い」
「もう……、これだから誠士郎は……」
え、なに。それだからなんなの。
すると椎奈は俺の心を読んだのか、ふっと笑みを浮かべた。
「モテないのよ」
……おうふ。現実という刃を突きつけないでください。軽く死にそうになった。顔はいいはずなのになぁ……。
「……ま、そのほうがいいんだけど」
椎奈は蚊の羽音ほどの音量でなにかつぶやいた。また悪口か?
「あん?なんだよ」
俺が眉をひそめてできるだけ不機嫌そうな表情をつくると、さすがに椎奈も慌てたのか、顔を真っ赤にして手をぶんぶん振った。指がちょいちょい俺の顔にあたってるよー。爪が結構痛いよー。
「べ、別に!!なんでもない!!………それよりどうなの?働くの?」
「断ったところでどうせ食い下がるんだろ」
俺がそう言うと、椎奈は満足げに鼻をフンと鳴らし、顔だけで「よく分かってるじゃない」と言った。なんで分かるんだろう俺。
「具体的な仕事内容は?」
俺は基本働くことへの抵抗はない。両親の手伝いもよくやらされたし、椎奈の家の仕事の手伝いも何回かやった。
働くということは絶対避けられないし、そうしないと社会はまわらない。
誰かがやってくれるとか思っていると、いつか自分にツケがまわってくるということは少年時代に嫌というほど学んだ。
だから率先して面倒ごとは引き受ける。
そうしないと人任せにしている奴らと同類になるからだ。
そういう奴らは大抵ろくな人間に育たない。
選挙の投票率が今や30%をきっているのも、そういうことなのだろう。
「はい、誓約書」
椎奈は空中にホログラムを起動し俺の方にスライドさせる。
自然に俺の視線も椎奈の指先から、画面に移る。
「誓約書って……おおげさだな」
俺が鼻で笑うと、椎奈は真剣な表情で俺の顔をまじまじと見る。
「……おおげさなんかじゃ、ないから」
その声は、多分今まで聞いた椎奈の声のなかで最も冷たく、尖ったものだった。
「……え?」
自分でも顔が引き攣っているのが分かるくらい、表情筋が無理をしていた。
笑おうと頑張っていた。
なんとなく、分かってしまったから。
この、わざわざ一番上に『誓約書』と記されている文字列が、何を意味するのか。
椎奈が、何を見てきたのか。
考えると、体が勝手に身震いを始める。
でも、俺はゆっくりと、誓約書を読み進める。
仕事内容や、それぞれの課の役割などなどがずらっと書かれていた。
もう周りのド派手な爆発音や、剣と剣がぶつかる独特の金属音など耳に入らない。
椎奈はそっと目を伏せ、俺はただ指を動かし読み進める。
そして。
辿り着いてしまう。
誓約書の一番下、終わりに当たる部分。
改行に次ぐ改行の先。
たった、その1文だけが、俺には浮かんで見えた。
『この職は、死亡する可能性が極めて高いですが、それでも志願しますか?』
その下に、YESとNOの選択肢とサイン用の枠がある。
俺は一瞬、椎奈を見る。
椎奈も気づいたのか一瞬だけ、俺と目を合わせる。しかし、すぐに逸らした。
「………これはあなたの判断に任せるわ。もちろんNOでも構わない」
答えなんか、とっくに出ている。
ニュース見てりゃ分かるよ。PUの局員が何人も死んでるってのは。
それでも、俺は。
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