4.俺は頑張りたくない。
「うわっ!びっくりした……いきなり大声あげないでよ…」
椎奈がそこそこの胸を押さえながら俺を潤んだ目で見てくる。なにそれ反則。
「すまん。でもさぁ」
「言いたいことはだいたい分かるけど、それが現実よ」
ちょっとカッコいいこと言ったからってそんな
「ええ〜、そんなに残念な能力じゃないんだけどな」
密はやれやれといった顔で、ため息をつく。感情表現豊かだな。アメリカ人か。
さて、ここで俺の能力を紹介しよう。どんっ。
[狩野 誠士郎:『
能力詳細:脳内で想像したことが、現実に起こる可能性を打ち消す。※この能力は直接人の生死に関わることは出来ない※
リスク:連続使用時、偏頭痛が発生する。]
はい、ツッコミどころが多すぎてセイちゃん困っちゃうゾ☆
まずなにからいこっかな〜ワクワクと考えていると椎奈が口を開いた。
「ようするに、あんたは世界最強の異能者ってことよ」
俺TUEEEE‼︎なんだよこのチート能力。っていうか詳細漠然としすぎだろ。全然詳しく細かく説明してないじゃん。危険度ってなに?俺危険人物ナンバーワンなの?不登校なのに?俺なんて無害なヤツ日本代表になって世界狙えるわ。いや、不登校で学校にも親にも迷惑かけてる時点で書類審査で落ちてたわ。
「局長さん、もしかして俺を監視下に置くためPUに……?」
「他に何か理由が見当たるのかい?」
おかしいと思ったんだよなー!いきなりPUで働かないかとか突然家に来て奥さん、家がだいぶシロアリにやられてますね〜ってぐらい怪しいじゃん!俺が異能者だって言われてちょっと舞い上がってたからなー。タイムスリップできる異能者いないかな。過去の俺をぶん殴ってでも止めに行く。
「過去に戻れるなんて異能者は現在存在しません。残念でした」
椎奈が小悪魔っぽい笑みを浮かべて俺を下から覗き込む。目を合わせる。すぐに逸らされる。なんで?
「まぁ理由はなんにせよ、君にはとにかくここで働いてもらう。君のお父さんからも頼まれたからね。これはチャンスだよ。君が自分自身を変える、ね」
自分を変える、か。なんかすごい意味深に言われたけど、全く分からない。俺って元から完全体だからさ、今さらなにを変えるっていうんだろう。
「そのために君には課題を出そう」
え、課題?なんか今背中にゾクッと寒気が走った気がするけど、大丈夫だよな。別に変な課題とかじゃ……はっ!しまったフラグを……‼︎
「明日から学校へ行くこと」
そのとき、局長室の空気が凍った。と感じたのは俺だけだったらしい。
椎奈は嬉しそうにはにかんでいるし、密は相変わらず人懐っこそうな微笑を浮かべている。
窓から通り抜ける風は、心なしか、俺の心を切り刻む陣風のように変わってしまっていたように思う。
俺の中の何かが崩れていくような音を聞きながら、俺は密の言葉に「は、はひ」と頷かざるを得なかった。呆然とするしかなかった。
崩れていく何かが、過去の弱い自分であることを願いながら、俺は椎奈に引っ張られて局長室をあとにする。
頑張れ、明日の俺。
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