3.俺は期待しない。
俺はとてつもない違和感を抱えていた。
今まで味わったことのないような、何かが抜け落ちているような感覚。
確か、何か聞こうとして、そこからの記憶がない。
椎奈も、俺と同様に、口をポカンと開けたまま空を見つめていた。アホっぽいな。
「これが、あなたの能力ですか」
端的に、真っ直ぐそう伝えると、密はわざとらしく肩を
「よく分かっただろう?僕の能力の厄介さが」
ああ、文字通り身に染みてるよ。
「『
敵で例えたら間違いなく、魔王を裏から操っている真・ラスボスだ。こういう敵は大抵肉弾戦に持っていくことはできない。俺は何を言っているんだろうか。
「で、さっき隠したことは教えてもらえないんですね」
俺が少し攻撃的に笑うと、密はククっと心底愉快そうな笑みを漏らした。俺は心底不愉快になった。なんだよこの爽やかさ。なんかむかつくから俺ももっかいニヒルに笑っとこ。にひっ。
「大したことじゃなかったからいいじゃないか。それより君の能力だ」
ああっ!そうだよ。今日は俺の能力のお披露目会だったじゃん。やっふぃー!!
「そうだったわね。まあ、なんて言うの?良かったわね」
さっきまであほ面晒していたとは思えないほどの冷静っぷりを発揮してくれるな。椎奈よ。しかもなんか微妙に引っかかる言葉だな、おい。今日こっから俺の伝説が始まるってのに。
「ええっと、確かここらへんに……あったあった」
密が目の前に映るホログラムをスライドし、タップする。にしても便利になったな。手首の動作だけで空中にホログラムが浮かぶなんて約100年前の人類は想像もしなかっただろう。
「これが、君の能力だ」
密が無駄に清涼感のある透き通った声で、決めゼリフを言う。うわぁ、めっちゃドヤ顔。タバスコぶっかけたい。そんで、手で塗りたくって…おっと誕生日会でのトラウマが……。
「なにぼーっとしてるのよ」
椎奈が引き気味だ。なに、俺の顔にゴミでもついてるの?それか俺の顔がゴミとか?ははは、自虐ネタはもうやめる。俺イケメン。
とにかく早く見よう。さぞこれから始まる異能バトルに見合うド派手な能力なんだろうな……っと!あぶないあぶない。フラグを建てるところだった。どうせ、使い終わったトイレットペーパーの芯にちょびっとこびりついているトイレットペーパーの残りみたいな能力なんだろうな。絶対そうだ。俺みたいなモブはそういう道端に落ちてる小石の上にちょびっとのっかってる砂みたいな能力しか手に入れられないはずだろう?
俺はペシっと両の手で頬を叩き、気を引き締めた。
少し開いている窓から、風が優しく吹き抜ける。
「よしっ!誠士郎、いきます」
俺は密に近づいていき、表示されているホログラムをのぞき込む。
──俺は目を見張る。
「なんっじゃこりゃァァァ!!」
俺の声は、太陽まで届いただろうか。
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