2.俺は隠してほしくない。
椎奈は俺のことなど歯牙にも掛けず、ずんずん歩いていく。
落ち着け俺、まずは深呼吸だ。すぅーっ、はぁぁぁあああ⁉︎
なんなんだあれ⁉︎なんでいきなり建物が現れてる⁉︎おかしいだろ!?いや、これも異能者の力か。簡単な話だったよ。どういう能力かは知らんが。
「いきなり騒ぎだしたり、静かになったり、あんたも忙しいわね」
椎奈が少し振り向いて、クスッと笑いながら俺に皮肉を浴びせる。
忙しいのは心の中でだけ、ね?俺ただ棒立ちになってただけだから。
さっきの俺の心の声を本当に声に出してみろ。警察の前で警察に通報されるなんていう笑い話になるぞ。そして俺は社会的に死ぬ。
「いつまで突っ立ってんのよ。早く行くわよ」
「………おう」
PUの正面には何人かの屈強な警備員っぽい人が、眉間に
「お疲れ様です!
椎奈が近くにいた警備員っぽい男の人に、愛想のいい笑顔を浮かべながら挨拶すると、彼はにへらと顔を緩ませて、
「ありがとう、照葉ちゃん‼︎ンフフ〜♪」
と言うと、スキップしながら俺達が来た方向へ去っていった。おい!仕事中にどこ行くんだ⁉︎
「あの人、どっか行っちまうぞ。いいのか?」
「さあ?コーヒーでも買いに行ったんじゃない?」
………まあ、いいか。それにしてもあの椎奈の笑顔は良かったな。いっつもあんな表情ならいいのに。なんで俺にはふてぶてしい笑みしか見せないんだ?
「それは……まだ早いわ」
椎奈が少し頰を紅潮させる。肌が、きめ細かい。唇が、艶めかしく光る。瞳が、潤んでいる。只々、エロい。
「……っ?なにが早いんだ?」
「別に、なんでもない」
俺は暴走しようとしている俺のバルムンクを隠すため、制服のズボンのポケットに手を突っ込んだ。そんな不審な目で見ないでくれ。
「入るわよ」
椎奈と俺は並んで、自動ドアの内側へと吸い込まれていった。まずは、局長とやらに挨拶するらしい。
無機質な廊下を人が忙しなく行き交う。俺達は、人を
「なあ、局長ってどんな人なんだ?」
「んー、ミステリアスな人、かしら」
ミステリアス、か。
「着いたわ」
いかにも偉い人が居ますよみたいな部屋の前で止まったとき、俺の心臓が、鼓動を速める。ゆっくりと、緊張してきている。あ、挨拶するだけなのに!
「司令課、照葉です。狩野誠士郎を連れてきました」
「お疲れ様。入っていいよ」
ドアの向こうから聞こえたのは、緩やかで、でもその中に芯の通った強さを持っているような声だった。
「失礼します」
「し、しつ、失礼です」
お前が失礼だわ、俺。なんで噛んだ、俺。めっちゃ視線を感じるぞ、俺。
「……随分と成長したね。小さい頃は照葉君の方が背が高かったのに」
そう言うと、椅子に座っていた30代後半くらいのやけに整った顔をしている男は爽やかに笑った。
──なぜ、俺の過去を知ってる?
椎奈も目を見開いている。知らなかった模様だ。
「そんな驚かないでくれ。誠士郎君のお父さんと少し知り合いでね。よく家に遊びに行かせてもらったものだよ」
「親父と……?そ、それ、は、なぜですか?」
よし!聞けた!噛まなかった…ことはないがまあ伝わったみたいだからよし。合格。
「……それは、秘密だね」
──っ!?今なにがっ?
──あれ、俺今なんのことについて聞こうかと思ってたっけ。
「さあ、自己紹介がまだだったね。僕は
──『
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