1章:違血の目

1.俺は行きたくない。

 俺は狩野誠士郎かのうせいしろう。15歳。高校1年生。A型。獅子座。

 東京のA地区でも最難関レベルとされる国立善山ぜんざん高等学校に首席で合格。見事特待生の称号を手に入れた。

 しかし、5月中旬に学校は休みがちになり、6月に入ってからは完全無欠の不登校となった。理由は聞かないでくれ。

 現在は、A地区の南の方にあるA-3区のとある小洒落たマンションの一室に、1人で住んでいる。もちろん寂しくなんかない。

 実家は、東京のC地区にあって、かなり遠い。もちろん悲しくなんかない。

 そして、先週の金曜日に幼馴染の照葉椎奈てるはしいなに俺が異能者であることを告げられた。今でも夢だったんじゃないかと思うが、昨日、椎奈からとあるメッセージアプリで俺の恥ずかしい寝癖の写真が送られて来たため、現実にあったことだと自分を諦めさせた。いつ撮ったんだ?そういうの盗撮って言うんだよ。


「別に良いじゃない。流出するわけでもないんだし。細かい男は嫌われますよ〜」


「よかねぇよ。……っておい!まだ保存してたのかそれ!」


 椎奈は、いい笑顔で俺の恥ずかしい写真を見せてくる。とても良い性格だと思います。


「ありがとう。よく言われるわ」


 この娘はたしかに可愛いし口ぶりもおしとやかって感じで一見性格が良さそうに見えるがそれは間違いだ。見て、この俺へのからかい。この俺だけに使われるからかい口調。


「あっ、手元が狂ってあんたの寝癖写真が共有BOXに……」


「椎奈って本当に可愛いし性格良いし料理上手いし可愛いよねー」


「可愛いを2回も言ってくれて嬉しいわ。……あんたも、制服似合ってるわよ」


 ………っ。ずるいよなぁ。


「……ありがとよ」


 さて、普段なら家でダラダラしたりゴロゴロしたりしてる日曜日に、俺と椎奈が会っている理由はというと、椎奈が勤めている異能者警察組織PUに俺がスカウトされたらしいので、今から研修に向かうとのことだ。

 まず俺の能力を知らされていない時点で謎だし、いきなりすぎて脳がごちゃごちゃしていて全く整理できていない。

 ちなみに俺は異能者なのかと親に電話したら、あっさりそうだと言われて電話を切られた。それから3回ぐらいかけたが出なかった。理不尽だ。


 とにかく俺は異能者で、PUにスカウトされて、今から研修に行くという事実だけを抱えて、椎奈と歩いている。


「駅からだいぶ遠いんだな」


「もう見えてるわよ」


「え?」


 そんな建物どこにも見えないんですが。


「ああ、まだ局長に会ってないからのか」


 そう言うと、椎奈はホログラムを呼び出し、誰かに電話をかけた。


「もしもし、司令課の照葉です。狩野誠士郎を連れて来ました」


「ご苦労さん。今よ」


 椎奈が電話を切り、こちらに向きドヤ顔を決めてくる。なんだなんだ。


「私はあんたが驚く方にアイス1つ賭けるわ」


「驚くってなんだよ。意味わからん。てか今の電話の相手は…」


「じゃああんたはあんたが驚かない方にアイス2つね」


 話聞けよ!


「いや、まず俺の質問………に…………?」


 先程まで俺達のいる約10メートル前方には、やけに大きい空き地しかなかったはずだ。なのに!なんで建物が現れてきてんだ!?


「な、なんだよ!あれ‼︎」


「はい、私の勝ち〜。バーゲンダッツ2つ買ってね」


 俺は、椎奈が指定してきたやたら高いアイスクリームのことなどぶっ飛ぶくらいに信じられない現象を目の当たりにして只々、立ち尽くしていた。


 なんだよあそこ。い、行きたくない!







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る