第14話 楽しい日々―アウル―

魔法使いと愉快な仲間たち6巻の発売記念SS

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今回はアウル(アウレア)のお話です




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 アウルは竜人族の里で過ごす時間が好きだ。ガルエラドが生まれ育った竜人族の里は過ごしやすく、良い人ばかりだった。何より思い切り騒いでもいい。

 普段は静かに隠れ過ごしている。元々、おとなしい性格だから苦ではないけれど、たまにはアウルも声を上げたくなる時があった。

 この数年はシウとよく会うため、彼と一緒の時は思う存分遊んでもいい。そういう魔法を使っていると教えてもらった。

 シウはアウルのことを考えて、いろいろしてくれる。靴もその一つだ。アウルを狙う人から守ってくれる魔法の靴だった。他にも魔道具がいっぱいあって、窮屈な生活が楽になった。ガルエラドは寝る前に古代竜カエルラマリスへ祈りを捧げるのだが、最近は「シウにも感謝を」と口にする。アウルにはそうしろと言わないけれど、実はこっそり「シウありがと」と言っている。

 靴や魔道具だけじゃなく、シウはアウルに食事の楽しさを教えてくれた。

 アウルはずっと食事は好きじゃなかった。どうしてかは分からない。ガルエラドが「大きくなれないぞ」と言うから、頑張って食べたのだ。ガルエラドみたいに大きくなれば一緒に竜を見にいける。大繁殖期で大変だという調整も手伝えたはず。留守番もしなくていい。だから、もそもそと食べ続けた。

 でもある日、シウがたくさんの料理をアウルのために作った。おそるおそる食べた料理はどれも美味しかった。シウは騎獣のフェレスを指差して「見てご覧、食べるのが大好きなんだよ」と笑った。フェレスはあっという間に食べてしまった。アウルは目を丸くした。べろんと大きな舌で口元を舐める姿もアウルには驚きだった。そして、いいなと思った。

 それ以来、アウルには食べられる料理が増えた。

「悪かった。俺がもう少し料理が得意だったら良かったが、どうにも慣れなくてな」

 大きなガルエラドが小さくなって謝る姿が、アウルには悲しく思えた。当時は言葉の意味なんて分かっていなかったけれど、気持ちは伝わる。アウルはガルエラドを慰めたくて一生懸命に彼の頬や肩を叩いた。だって、ガルエラドはいつだってアウルを抱っこしてくれる。眠る時も一緒だ。慣れないと言いながらも料理を作って用意してくれた。

 アウルがもっと小さい時はオムツも替えてくれたらしい。

 だから大好きだと伝えたかったけれど、その時もやっぱり言葉は分からずただただ、くっつくだけだった。

 アウルに言葉を教えてくれたのは竜人族の皆だ。

 里に顔を出すたび喜んでくれた。ガルエラドは普段の緊張を解いて楽しげに狩りへ行き、アウルは女の人たちに撫でられる。言葉も遊びも彼女たちが教えてくれた。


 そんな里帰りにシウも加わるようになった。

 最初の年はまだなんとなくでしか理解出来ていなかったけれど、翌年にはシウもアウルと同じなんだと思えた。アウルは竜人族ではない。でもガルエラドに連れてきてもらってたぶん仲間になった。シウも同じだ。フェレスやブランカにクロ、ロトスだってそう。

 アウルはそれが嬉しい。

 その上、今年の里帰りはいつもよりも楽しかった。

 シウの同行者に赤ちゃんがいたからだ。お母さんはアントレーネ。竜人族みたいに大きくて格好良い。戦士職だと聞いて皆が興奮していた。ガルエラドも竜人族とは違う戦い方にわくわくしていた。

 強いお母さんを持つ赤ちゃんたちも元気いっぱいだった。アウルの方が年上なのに追いかけっこをしたら追いつかれそうなぐらいだ。遊ぶ時も三人それぞれ違って面白い。

 更に、ソノールスという竜人族の子供も外に出てきた。去年までは体が弱くて家の中で寝ていたのだ。

 アウルは嬉しくて、ソノールスの手を引いて里を案内した。

「あのね、これ、はっぱ」

「はっぱ?」

「もみもみすると、あわ、でるんだよ」

「わぁ!」

 二人で並んでいる横を、赤ちゃんたちが走り回る。

「あぶぅ」

「うきゃぁっ」

「うー」

「こらこら、石ころのある道を走ったら危ないって。待って。速いよ」

 女の人がリードという紐を手にしたまま追いかける。竜人族は力強い人が多い。女の人も、ひょいひょいと赤ちゃんを抱き上げては危なくない草むらに置いた。なのにまた走り出す。

「あー、リード着けさせて! ちょっと外しただけで、どうしてー」

「そっちに溝があるよ、止めて!」

「風の魔法で受け止めるしかないんじゃないっ?」

 何人もの女の人が慌ててる。

 アウルはソノールスに笑いかけた。

「たのしーね?」

「あい」

「やだー、待って! あっ、フェレスだわ。フェレス、お願い、ガリファロちゃんを止めてぇぇ」

「にゃぅ」

 フェレスが溝から上がって赤ちゃんを止める。アウルにするような尻尾で優しく助ける方法ではない。服の後ろを噛んで、ぶらんぶらんと下げるのだ。

 ソノールスが指を指した。

「あー」

 まだ言葉は分からないけれど、少し前までアウルも同じだった。だから分かる。

「あれ、いいね」

「あい」

 アウルはソノールスの手を取って、走った。魔法の靴が地面を蹴る。

「ふぇれー、アウルも、ぶらーぶらー、して!」

「にゃん」

「ソノーも!」

「あい!」

 女の人たちが「え、いいのかな」「大丈夫?」と言っていたけれど、フェレスは「にゃんにゃん」と鳴いて近付いた。

「いいって! やったー、だね?」

「やったー」

「にゃっふー」

 フェレスも真似て、アウルはソノールスと顔を見合わせて笑った。

 竜人族の里は楽しい。

 いつも「今」しか考えていなかったアウルは、未来を想像した。明日も明後日も、きっとその先も楽しい日々が待っているに違いない。





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魔法使いシリーズ番外編-人間編- 小鳥屋エム @m_kotoriya

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