奴隷市


 奴隷市は一日だけだと思っていたが、何日もかけてやるようだ。

 初回は一日だけだったのが、大人気のため年々日程が長くなっており今年は年三回に増やすように計画しているらしい。


 まず、あのキンキラキン会場でオークションが開催される。

 あそこに入るためには高い入場券を買う必要があり、質のいい奴隷を求めて金持ちが総出で参加する。

 売れ残りが後日野外で公開販売という流れになる。


 オークションは日によって扱われる奴隷がかわり、その日程が書かれたのがこの出品予定表。


 全部に参加できればいいが、その度に入場費がかかって現実的ではない。

 なんとか狙いを絞る必要がある。



「クロはどこに売りに出されるとおもう?」


 女性部門、男性部門、子供、赤子、特殊等細かく分類されていた。


「それはもちろん処女部門」


 ぶっと吹き出す。


「なんだそれっ」


 身を乗り出して予定表を覗く。うわっ本当に処女部門ってのがある!


「まあ、おばあちゃんが処女だという大前提が必要ですが」

「まず間違いなく、処女だろう」

「根拠は?」

「だってアイツ自分の事さ-」


『女と思っていない』俺とクロの声がハモった。


「だよなあ」と俺はため息をついた。

「ですよねえ」とクロは笑う。


自分がどうゆう目で見られているのかアイツは全く理解していない。

理解してたらお風呂上りに下着姿で歩いたりしないだろ。

女として終わってる。



それにしても、わざわざこんな部門をつくっているなんて男ってやつはどうしようもない生き物だ。


「性病の問題は結構深刻なんですよ」


 遊びで病気になったら堪らない、確実に安全な処女を求める人は多いらしい


「目的もはっきりしてますから、容姿の良い若い娘を選りすぐって出品してくるんです。この部門が一番人気で一番競りが白熱します」


「処女か否かで値段の差がはげしいので奴隷商人が商品に手を出すことはないと思います」



「安心しました?」と聞かれ、俺は真っ赤になって頷く。



 キクが他の男に抱かれてたら泣く。マジで。



「売られたら最後、だいたい薬漬けにされますけどね」








 奴隷市の初日。

 キクの出品予想の日ではないが下見として中に入ってみることになった。


 クロと共にお祭りのような賑わいを眺めながら会場へと向かっていると人混みがざわついた。

 表通りに兵が二騎ほど現れ人払いしていく。そして人が割れた中を兵に守られた馬車が進んできた。


 金持ちの派手な物とは違う風格を感じさせる馬車だ。


「ロス皇子だ」という声が人々の口から発せられ俺の耳に届く。


 ロス皇子?


「あれが……」


 現皇帝の息子。

 俺の従兄


 燃えるような赤い髪の男が見えた。

「ロス皇子様ああああ!」女達の黄色い声が俺達の近くであがり、皇子の顔がこっちを向く。夏空ような水色の瞳と目があった。

 とはいっても目が合ったのは俺だけで、皇子から見ればその他諸々の一人であったようだが。

 自分に向けられた声に手を上げ上品に微笑む皇子に、再び女達の黄色い声があがった。


 すごい人気だな。

 たしかに女ウケする顔をしている。


 同じように手を振れば女の歓声があがる男がここにいるが。

 そう思ってチラリと横を窺うと、隣に立っていたはずのクロがいなくなっていた。


「え?」


 突然消えたクロの姿を探して辺りを見渡す。

 先に行ったのか?いや、皆ロス皇子の姿を拝もうと立ち止まり押し合ってる状態だ。

 この中を前に向かって進むなんて不可能だ。


 俺はなんとか人をかき分けて後退し、表通りの人だかりを抜け路地裏に移動することに成功した。


「おーい!クロー?」


 もみくちゃになった服を整えながらクロを探して路地裏を走る。

 運よくそんなに離れてない場所でクロの姿を発見した


「どうか……したのか?」


 クロは建物の影で壁にもたれかかっていた。


「いえ」というクロの手が小さく震えている。


「顔色悪いぞ?」

「言ったでしょう?僕はロス皇子には逆らえないって」


「逆らえない」って、想像と少し違っていた。


「……怖いのか?」

「怖い……ですね」


 汗を流す姿に目を丸くする。


 あのクロがだ。

 Ⅰ群の中でも一目を置かれている、あのクロが。


「……そんなに強いのか?」

 そんな風には見えなかったが。クロなら余裕で瞬殺できそうだけどな


 俺の問いにクロは答えなかった。


「それで?アトルのロス皇子を見た感想は?」


 深い息を吐いて、少し余裕を取り戻してきたクロは俺に感想を聞いて来た


「いや、そう言われてもな。昔あったことあるんだろうけど全く覚えてないし。まあ、噂通りの美男子だなあくらいか」


「そうですか。僕は吐き気がしますよ」

「……」


 突然の不敬発言に目を丸める。

 詳しく話す気がないくせに何故そういう事を平気で言うのだろう。


「何故だ?」

「そのうちアトルにもわかります」


 念のため聞いてみたがやはり話さない。



「君は復讐してやろうという気はないようですね」


 復讐か。

 ずいぶん呪った時期もあったけど。今はどうだろうな


 とりあえず言えることは「……アイツは関係ないだろう」ということだった。


「関係ない……か」

 と、なにか含みのある言い方をされた。


 なんだよ。別に子供に罪はないだろう。




「突然すみません。一緒に行けなくなりました」

 気を取り直して会場に向かおうとした俺にクロが申し訳なさそうにいってきた。


「僕はここで手を引かせてください」

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おばあちゃんが異世界に飛ばされたようです いそきのりん @midoriiro94

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