第4話

「早く起きなさい!もう8時よ!」

土曜日の朝、母の声で目覚める。肌触りのよい布団にずっと包まれていたいしまだまだ眠い。カーテンが開けられ部屋に光が差し込む。その様子をぼんやりと見つめていた。

「何ぼーっとしてんの。玄関で涼太くんっていう子があんたのこと待ってるのよ!待たせちゃ悪いでしょ!」

「…はっ!?」

ベッドから飛び起きて自分のかっこうもいざしらず、ドタドタドタと勢いよく階段を降りるとそこには部活ジャージを着て所在なさげに突っ立っている涼太がいた。外は相当寒いのだろう。耳から頬にかけて真っ赤になっている。ぱっと顔が明るくなるや否やくっくっくと笑いながら私に向かって

「おはよう。」

と言ってきた。笑いながら手袋を外す彼に無性に腹が立つ。

「…そんなパジャマ着てるんだね。」

「…は?…キモ!なんでうち来てんのよ!場所知らないはずでしょ!」

「連絡網、年初めに配られたじゃん。」

「私的利用はしない約束でしょ!?」

思わず朝から玄関先で大きな声で叫んでしまった。キーンと頭が痛い。はた迷惑なやつと思いながら頭をかく。なんで涼太は家にきたんだ。また“彼氏のすること”なのだろうか。こんな事は望んでいない。事前に連絡しておいてからはまだいいとして、アポ無しで来るなんて。朝からペースが崩されてんてこまいである。

「…用意するの時間かかるから先学校行ってて。」

「それなら意味ないよ。」

「意味って何。何の意味があるの。」

「彼氏としての意味だよ。」

苛立つ返答だった。なんでこんな玄関先で昨日今日付き合い始めた元友人と言い合いしてるんだ。昨日は「恥ずかしい」と自分でも初々しい感情を持ち合わせていたことに自覚していたのに今となっては最悪な気分である。時間の無駄でしかない。適当にあしらって準備しなければ部活に間に合わない。

「…じゃあ準備してくるから。それで涼太が遅刻しても責任取らないから。」

「いいよ、気にしないから。」

ふっと目を細めて笑う。なんでこんなに余裕があるんだ。涼太の笑った顔に少しばかり罪悪感を覚えるが急いで準備しなければならない。私はドアを閉め、部屋に戻った。ベッドに腰掛けて少し息をついた。

「なんなのよ、あいつ…」

チッチッチッと時計の秒針が進む音だけが部屋に響いた。とりあえず支度をするためハンガーにかかった黒色のジャージを無造作に取って床に放る。靴下もてきとうに棚から取ってジャージの上に放り出した。

「……はあ」

朝から重めのため息が出た。よろりと立ち上がって部屋着をとろとろと脱ぐ。脱いだ途端、部屋に流れこんだ冷えた空気がインナーを通り越して肌に突き刺さりぶわっと鳥肌がたった。ぶるりと身震いをして上下ジャージを着てキャラクターが描かれたクールソックスを履いた。

「これだったら少し寒いかな…」

そう思ってもう一足、棚から靴下を出して上から重ねばきをした。ずんぐりむっくりになった足は気にせずカバンを引っ張り上げて肩にかけた。振り向いて忘れ物がないか確認して私は部屋を出た。

下に降りていくと玄関に招き入れられた涼太がヘリに腰掛けていた。

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恋路 和人参 @kingomadre

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