第3話
──私は後にこの「男を手篭めにすると生きやすくなる」という考えを後悔することとなる。
ハンバーガーショップを出ると、1月の寒い乾燥しきった風が強く吹いていた。びゅうと風が吹いて髪が方々へ散らばる。風になびく髪を押さえながらうんざりとした顔で曇った空を見上げた。
「明日、部活が終わった後、デートしよう。」
思いもよらない提案だった。驚いて曇った空から自転車の鍵をガチャリと外す涼太に視線を移す。
「デ、デート…?」
「俺たち付き合いはじめたんだからデートするのは普通だろ?」
「明日…?」
「明日。」
つい10分前から付き合いはじめた男女が、明日いきなりデートをするものだろうか。今まで彼氏がいたわけではないが、世間ではこのスピード感が普通なのか。悶々としながら思案する。私の貞操観念がお堅いだけなのだろうか。
「…わかった。」
「よっし!」
涼太は拳を握りしめガッツポーズした。本当に嬉しかったのだろう。私は全然ガッツポーズする気分じゃない。
まあいいか、と思いながら自転車にまたがりぐっと脚に力を入れペダルを回しはじめた。横に涼太が並走する。車が往来する音や他人の話し声が聞こえるだけだ。昨日まで「あの先生はヅラ」だの「あの先輩が二股してたらしい」だの身のない話をベラベラと話していたのに、今は会話をするのもままならない。これが“初々しい”というのか。私は私の考えから涼太と付き合いはじめたが、少し恋愛に興味がわいて涼太の事を意識しはじめたのかもしれない。
そんな事を考えているといつも分かれる時計台のところまで来た。
「…じゃあまた明日ね。」
「え、家まで送っていくよ。」
また思いもよらない提案がきた。
「いや、大丈夫大丈夫。家まで後少しだし、涼太の家から遠くなっちゃうから。」
「送らせてよ、せっかく彼氏なんだから。」
“彼氏”という立場を得た途端にそういう気づかいをされると「涼太は私の彼氏である」実感がふつふつとわいてきた。
「よ、寄りたいところあるからまた今度送って!また明日!」
そう別れを告げて力いっぱい自転車を漕ぎ出す。寄りたい所なんてない。冷たい風が頬を掠めるがそんな事はどうでもいい。涼太から一刻も早く遠ざかりたかった。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!
胸の内で感情が膨れ上がる。自分の保身のために付き合いはじめたとは言え、あんな露骨な“彼氏のする事”を目の当たりにすると恥ずかしいとしか思えない。私は息を切らしながら家まで自転車を漕いだ。着ているカーディガンが暑くて邪魔になるほど漕いだ。
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