第2話

涼太が持ってきたトレーの上にはフライドポテト、ドリンク、チーズバーガーが所狭しとのっていた。すべてLサイズなのでさらに窮屈に見えた。

彼は席についたと同時に口を開いて、

「ねえ、返事聞かせてよ」

と前のめりになって急かすように言った。なにをそんなに焦っているのか。返事もなにも突然すぎてまだ何の結論も出せていない。そもそも私たちは同じ部活で家が同じ方向で一緒に帰っていただけであって、ましてや2人きりで遊んだ事なんてない。私は男はなんて不明瞭な生き物なのだとハンバーガーを食べながら思った。

「ねえ」

彼はなおも私を急かす。

「少し考えさせて」

私は口の中にあるハンバーガーを飲み込み彼にそう伝えた。

「…わかった」

彼はそう言うと冷めてきたであろうチーズバーガーを口に運んだ。

私には最近部活で気づいたことがある。先日行われた中等部ミーティングの際に、同期の里歩が顧問に「掃除機を部費で買って欲しい。箒では取りきれないゴミがある」と提案し、始め顧問はその提案を受け入れた。しかし、中等部主将の片岡先輩が「うるさいし邪魔。箒でやれ。」と横やりを入れ、それに加え同期男子の川上が「部室はそんなに広くないだろ。」と片岡先輩を助長する発言をした。女子には反論する隙も与えないような雰囲気だった。顧問も男子たちに気圧されてか里歩の提案を却下した。里歩はしょぼくれて席に座った。

「…掃除するのは女子なのに」

と里歩は涙をにじませながら小さく呟いていた。

一方、部内恋愛をしている中等部の狭山先輩が「寒いからケトルがほしい」とわけのわからない提案をした。彼女は、

「寒い時期になると先生も温かい飲み物が飲みたくなりますよね?私も温かい飲み物が飲みたいんです。ウィンウィンじゃないですか?後輩のみんなもケトルほしい思いますよ」

と相変わらずあまったるい声で言っていた。狭山先輩の彼氏である森田先輩が顧問に向かって、

「ケトルは掃除機よりも安価です。一時的に置いてみてみんなが気に入ればそのまま置いといたらいいじゃないですか。」

とため息混じりに苛立ちをあらわにして言い放った。

結局狭山先輩の提案通りケトルが置かれることとなった。男を手篭めにしている女と、手篭めにしていない女の歴然とした差だった。その時私はこの部活では男があらゆる権利を持っている事に気づいた。私は部活を楽しんでいるし、せっかくならやり続けたい。しかし、男を手篭めにしていない今のままでは続けていくことは苦しくなってくるに違いない。次第に不満がたまってくるだろう。狭山先輩のように男を手篭めにしておくのが無難だ。それに涼太は格別仲が悪いわけでもない。

長い沈黙の間にチーズバーガーを食べ終え、落ち着かない様子でフライドポテトに手を伸ばしていた涼太に私は、

「いいよ」

と言った。

「え、ほんと?ほんとにいいの?」

「いいよ。よろしくお願いします」

「マジかよ!ヨッシャー!!」

彼は目を輝かせそう言うと残りのフライドポテトを瞬く間に食べ終えた。彼はさっきの長い沈黙の間に私が何を考えていた知るわけもない。

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