恋路
和人参
第1話
「俺と付き合ってください」
真冬の昼、日差しがとろりと差していた。そう涼太に言われたのは自転車を漕ぎながら2人で帰っている時だった。私は突然何を言われたのか理解できなかった。自転車を漕ぐたびに横を過ぎ去る風に彼の言葉がさらわれていったような妙な気分だった。それに加え、横を路面電車が大きな音をたてながら走る。
「何言ってるの?」
私は突然の事だったので彼を小馬鹿にした。するしかなかったのだ。横にいる彼の方をちらと見てみると耳を真っ赤にさせながらもまっすぐ前を向いて自転車を漕いでいる。寒さで耳が赤くなっているのではない、と私は直感的にそう思った。これは彼の本気なのだ。私は
「お腹空いた。白くまバーガー行こ」
とお腹もさほど空いていないのに彼を昼食に誘った。彼は
「うん」
と呟いた。そう呟いた彼の耳はまだ赤いままだった。
自転車を置き、店に入るとむわっとした熱気を感じた。肉の焼ける臭いが漂い、フライドポテトが揚がり終わる音と日曜日の昼時だからか学生が騒ぐ声が混じり合い騒々しかった。何を頼もうかと思案していると涼太が
「何がいい?」
と聞いてきた。
「みそチーズバーガー」
と答えみそチーズバーガー代を釣り銭置きに置いた。
「やっぱ変わってるな。あ、俺は白くまマックスセットで」
彼は笑いながらそう言うと直接店員にお金を渡した。私のみそチーズバーガー代を無視して。ハッとして焦った私が釣り銭置きに置かれた小銭を店員に差し出そうとした瞬間、
「いいから、おごらせて」
と私に言った。瞬間私は申し訳ない気持ちと裏腹に優越感を持ち合わせた。謙虚な姿勢を美徳とするこの国の礼節に従い、私は控えめに
「ありがとう」
と涼太に伝えた。先にみそチーズバーガーが出来上がり私はそれを受け取ると、外の景色が見える窓側の2人席に座り彼を待った。外にいる人たちはこちらには当たり前だが目もくれず、己の目的地へと歩を進めていた。それを見た私は小さく「よそ事だなぁ」と呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます