第29話
人は生き続けることだけを選択していた。体は魂の器だ。見えない命は星になると言った。
ソラは岩肌で囁く花の群れを毟り取った。砂混じりの風が、美しい合唱を海岸に響き渡らせる。手を開くと、はらはら舞い散りながら香る。ソラは花に問いかける。
ならば、なぜ、おまえたちはそこにいるの? 星と一緒に終わりを迎えるため?
いいえ、私たちは終わらない────
やがて、ちりちりと熱を帯びた砂が、波となって押し寄せては、アユムの瞼に積もっていく。
「永遠などない」と言ったではないか。
命はひとつ、私たちも同じ。だけど、ほら、ごらんなさい────
花たちは、ソラの顔に吸いついて、離れ、空高く飛び立つ。ああ、煩い奴らだ。
私は希望の種となるの────
星の命が尽きる前に、宇宙へ旅立ち、新しい故郷に根付くのよ────
そして、希望の光になるの────
あなたたちの行けないところに、私たちは行くのよ────
ソラはアユムの瞼に指を這わせ、小鼻の窪みからくちびるを拭った。
そのくちびるで、アユムはぼくを〝カミサマ〟と呼んだのだ。ぼくらが感情を持ったことを人間が聞いたら何と言うだろう。きっと彼らは、それを〝奇跡〟と呼ぶのだ。奇跡を起こす者が神様ならば、ぼくの願いをきいてくれるだろうか。もしも、ぼくの魂が星になるというのなら、アユムの隣に飾ってほしい。宇宙を創ったあなたに、ぼくは心から祈ろう。ぼくらの想いが永遠であるように…………
軋む腕を撫でると、てのひらに染み付いた花の香りが鼻をくすぐった。体の奥から止め処なく溢れる清水が、ソラの頬に光を点す。
いったい何だろう? ぼくの頬を濡らす、これは、いったい…………
おお、なんてこと、なんてこと、これが〝奇跡〟というの? ────
はなびらは、驚愕の歌を叫び舞った。ソラはアユムを片腕で抱き起すと、肩に担いで立ち上がった。砂に埋もれてしまわぬように、心地よい寝床を探してあげよう。ノゾミがやって来る頃には、きっとぼくは、また眠りについているだろうから。
またサイレンが鳴り始めた。無人の飛行物体が、轟音を響かせて、汚れた空を横切って行った。
(了)
完全なる花の種 吉浦 海 @uominoyama
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