PART 4 - 休暇旅行

 つい数日前に揺られたのと同じ鉄道の客車にごとりごとりと揺られながら、ギブンはぼんやりと車窓の風景を眺める。

 同じ客車とはいえ、監察官は指定席の手配まで行っていた。それもギブンの隣の座席まで押さえている始末である。


「ううむ……」


 思わず口中で呻き声が出る。

 折角なので遠慮なく旅行鞄を隣の座席に置かせてもらってはいるが、どうにも収まりが悪い。

 数日前にロド村まで捜査に赴いた際はギブンは数列後ろの自由席に座り、両脚の間に鞄を置いて身を縮めていたものだが、そもそもこうした特別待遇というものは初めての経験だ。

 私用で旅行する際も自由席を利用することが身に染みついているため、やはりどうにも、かえって居心地が悪い。

 そうしてギブンが些細な問題に懊悩おうのうしているうちに、ごとん、と音を立てて客車が停止する。


「早いな……もう着いたか」


 やはり思わず独りごちる。

 当然と言えば当然であるが、目的地は行楽施設として整備されている以上、蓋然的がいぜんてきに幹線沿いに最寄の駅舎が位置している。ロド村へ向かう乗換駅よりもはるかに到着が早かった。

 鞄を手に取り、駅舎に降りると、潮の香りが鼻についた。

 改札を通り、屋外に出るとでかでかと目的地に向かう乗合馬車への案内板が掲げられている。

 指し示されるとおりに乗り場の列に並ぶと、結構な盛況である。

 いかにも裕福そうな身形みなりの連れ合いや、団体客、家族連れに挟まれると、ここでもどうにもギブンは肩身が狭い。

 流されるまま幌馬車に乗せられると、ごろごろとした揺れが始まり、半刻ほどで止まった。

 鞄ひとつを手にして地面に下りると、潮の香りが強くなる。

 なにやら見慣れぬ様式の門構えを眺めていると――訝しむ間もなく、人波に押されて、ギブンは宿に入ることになった。

 

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エメラルドギロチン myz @myz

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