始まりの物語 伍

きっと僕が良い行いをしたのだろうが、何故か記憶がない──という訳でもう一度回想に入ろう。


フィクションと星火が和解し、喧嘩の後の友情的なものが芽生え、手を握り合っている光景を僕は微笑ましやかに見ていた。


「何だ兄ちゃん、あたしとフィクションちゃんを視姦して。あたしはいつでも兄ちゃんを受け入れる準備はできてるから、見るだけじゃなくて身体も触って良いんだぞ?」


星火がフィクションとほぼ同じ事を言いだした──余計な一言を付け加えて。


「二人して僕を視姦魔にするんじゃない。大体、見ただけで視姦とは何事だ」


「視姦ってのは相手を見つめて、恥かしめる事を言うんだぜ? あたしもフィクションちゃんも兄ちゃんに見つめられて恥ずかしい!」


星火の言い分にフィクションはうんうんと頷いている。

というか二人共全然辱められているようには見えないんだが。

むしろ、視姦しているとか言われている僕の方が辱められている気がする。


まあ、きっと二人共僕をからかって楽しんでいるだけだろう。

だが、しかし年下の女の子にからかわれたままで良いのだろうか?

いや、良い訳が無い。

フィクションも星火も僕が視姦している奴だと言うのならば、本当に視姦してやろう。


「それにしても、星火の胸はいつ見ても中学生とは思えない大きさだな──全く、どうやったらそんなに大きくなるんだ?」


「へっ…?」


突然、いつもの僕が言わないような事を言ったので星火は驚き、戸惑っている。

うん、まあ、作戦通りだ。

普段から変態的な事を僕に言ってくる星火だが、実は結構純粋で自分以外の人物から下ネタを言われると、照れてしまうのだ。


「いつも、その胸を揉むのを我慢するのは本当に至難の技なんだぞ?」


「あ…うぅ…」


顔を赤く染めて悶える星火。

まだまだ辱めてやろう。


「どうした星火? 何ならもっと視姦してやろうか?」


「………」


「黙ってちゃわからないぞ? というかよく考えたらお前の着ているジャージって僕のだよな? 何というか…その、妹とはいえ女の子に服を貸すのってちょっとエロいな」


「………」


──星火が何の言葉も発さない。

何か、今の僕って妹にセクハラをしているただの変態じゃないか?

変な奴と思われたらどうしよう。

しかし、なりふり構っていては星火を論破する事が出来ない。

ここは、徹底的にだ。


「さあ星火! 兄ちゃんの胸の中へ飛び込んで来い!」


これが星火を極限まで悶えさせ、恥かしめる為の最終手段。

純粋な星火ならばきっとここで恥ずかしがり、拒むだろう。

そこで僕は無理矢理抱きしめる。

きっと星火はあまりの羞恥に失神するだろう──それはもう悶え死にしそうになるくらいに。うん、我ならがら完璧な作戦だ。


穴だらけの作戦のように思えるかもしれない。だが昔、星火と似たようなやり取りがあった時に今の作戦をやってみたら見事に成功した。まあ、つまり実績がある訳だからこの作戦が失敗するはずが無い──僕はそう思っていた。


「兄ちゃーーん!!」


星火が何故か僕に抱きついてきた。あれ? おかしいぞ。確かに僕は胸に飛び込んで来いと言ったが想像していた展開とは違う──というより間逆の展開になってしまった。


「やっとあたしの気持ちに応えてくれる気になったか!」


僕の身体をベタベタと触りまくる星火。


「やめろ! 離れろ!」


星火を身体から引き剥がそうとするが、僕が筋力差で負けているせいで引き剥がす事が出来ない。

引き剥がそうとすると逆に、タコのように身体に絡みついてきた。

これはまずい。

フィクションの前で妹に抱きつかれているこの光景は世間的にまずい。


「兄ちゃん! 兄ちゃん! 兄ちゃん!」


兄ちゃんと連呼する星火。

うん、何というか、これはもう諦めるしか無いな。

こうなった星火をやめさせる事は僕には出来ない──というか誰にも出来ないだろう。

どうせ無理ならこのまま星火は放置して、標的をフィクションに変えよう。


「おい、フィクション!」


「な、何ですか? 神堂さん?」


明らかにフィクションは動揺している。まあ、見方によっては妹にセクハラ発言をして、その妹に抱きつかれているやばい奴にドン引きしているようにも感じるが──きっとそれは気のせいだ。

気のせいだと信じたい。


いや、気のせいにはならないだろう。今から僕はフィクションに対しても星火と同じ事をするから。

僕の事を視姦魔だとか言いやがったこの毒舌ロリに、僕の恐ろしさを刻み込んでやる。


「考えてみれば、フィクションの小さな胸も悪く無いと思えてきたんだよ」


「はあ?」


フィクションは「何言ってるんだこいつ」と言わなくてもわかるほどの軽蔑の目を僕に向けてきた。

さっきも思ったのだが、これでは僕はただの変態では無いか?


「いや、違う! 誤解だ!」


「何が誤解なんですか?」


「その…それは……」


誤解を解こうと思ったが、うまい言い訳も言葉巧みな嘘も出てこなかった。


「全く、本当に仕方がない人ですね神堂さんは──今ならまだ土下座だけで許してあげますよ」


フィクションは誇らしげに、勝ち誇ったように胸を張る。

胸がない癖に胸を強調している。

こんなアホみたいな奴にナメられる訳にはいかない。

その為にはまずフィクションの目線を逸らさなければいけないな。

まずとてもベタにいこう。


「あっ、UFOだ!」


と、言ってはみたものの、こんな馬鹿も引っかからないような手段で反応してくれるのか?


「えっ、どこですか?」


馬鹿だった。

フィクションは僕が思っているよりも数倍馬鹿であった。

しかし、これで準備は整った。

僕はフィクションに向かって駆け出した。


「フィクショーーン!」


と、叫びながらUFOを探しているフィクションを抱きしめた。

ぎゃーぎゃーとフィクションは暴れ、喚いているが僕の包容から逃れる事は出来ない。

そもそも、フィクションは小学生の身体なのだから高校生男子の僕との力の差は大きい。だから僕から逃れる事などできるはずが無いのだ。


「な、何ですか!? やめてください!」


「やめる訳無いだろ! あっ、お前ほっぺぷにぷにじゃ無いか! よし!」


抵抗できないフィクションに頬ずりして、ほっぺにキスまでした。

完璧に、言い訳できないほどのセクハラっぷりだ。

しかも、妹を腰にぶら下げて小学生にセクハラしているのだから尚更タチが悪い。


まあ、僕たち三人以外に見ている人間などいないのだから世間体など気にしなくて良いのだ──というかここは現実世界ではなく物語の中の世界だ。気にする必要はないはずなのだ。


「あー! ぷにぷにだったー!」.


「良かったな! 兄ちゃん!」


一切の遠慮も無く、フィクションの身体を触りまくった僕に星火が拍手する。だが、何故か歯止めが効かなくなっている僕は次の標的に狙いを定めた。


「星火ーー!」


妹に抱きついてしまった。

僕の腰に抱きついていたせいで星火が逆さのまま持ち上げられ、何だかプロレス技のような姿勢になっている。このまま落としたら本当にプロレス技になるのだろうが、流石にそれはやらない。

代わりに星火の靴と靴下を脱がせ、的確なポイントをくすぐった。


「アーハッハッハ!! 兄ちゃんやめてくれよ!」


「やめろって言われても、全然やめて欲しそうに見えないぞ!そんな嬉しそうな顔しやがって!」


星火はくすぐられるのには強い方なのだが、僕のくすぐりには耐えられないようだ。

本人曰く、「兄ちゃんはツボがわかってるから」らしい。

多分、幼い頃から一緒に過ごしてきた事で僕の身体が自然に星火のツボを覚えたとか、そういう事なのだろう。


「ほれほれほれほれほれほれ!」


「アーッハッハッハ!! もうギブ、ギブだから!」


星火が負けを認めた。

僕はぐったりとしている星火をゆっくりと地面に降ろしたところで僕は何かを踏み、滑った。

頭に強烈な痛みが走る。

僕の意識は一旦途切れた──。




ここで回想終了。

いろいろと思い出した。

僕は何かに滑って記憶が飛んでいたという事も鮮明に思い出した。


「なるほどな……」


回想して思い出したのだが……何というか回想するような事でも無かった──むしろ人生の中で思い出したくないランキングをつけるとしたらかなり上位にランクインしそうな要らない記憶だった。


「何が、なるほど何ですか?」


「いや、うん、まあな……」


言える訳ないな。

二人を虫の息になるまで疲れさせたのは僕で、しかもその手段がセクハラとは…。


「ほら、言ってくださいよ、言っちゃってくださいよ。私は女の子二人にセクハラしましたと!」


「………」


フィクションに強要されている台詞を言うわけにはいかない──というか、口が裂けても言いたくない。


「黙ってないで何とか言ってください!」


「………」


こういう時は黙っていれば良い。

黙っていれば、相手の方から諦めてくれるに違いない。

まあ、言い逃れができないから黙っている事しかできないだけなのだが。


「魔法……ぶちかましますよ?」


「僕は女の子二人にセクハラしました! すいません!」


フィクションの恐ろしい脅迫のせいで思わず口が裂けても言いたくない台詞を吐いてしまった。

まあ、結果的にはこれで良かったのかもしれない。

どうせ、言い逃れはできないのだから素直に謝罪するしかなかった──まあ、命は大事だし仕方が無い。


「それにしても、神堂さんはベタな展開はあまり好かれないという印象でしたが、滑って石に頭を打つなんてかなりベタですよね」


「うるさい」


恥ずかしいからそれには触れないようにしていたのに、フィクションは掘り返してきた。

「やーい、このベタベタ神堂さん」とフィクションがしつこく絡んでくる。

ベタベタ神堂さんって何だか僕がベタベタしているみたいで嫌だな…。


いや、確かに僕の身体の所々がベタベタしているが何故だろう。

足元を見ると僕がさっき滑って転んだ原因と思われる黄色い果実が潰れていた。

こういう場合はバナナと思うのがベタなのだろうが、僕が踏んだ果実は──、


「何だ…マンゴーかよ……」


うん。

多分、これはベタでは無いな。

安心した。

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この物語はフィクションではありません 乱武流 @kenka1217

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