法徳のワイン

 あなた方は法を知るべきです。

 あなた方は徳を知るべきです。

 正しくあろうとするならば、この二つを知るべきです。たとえ相反するとしてもその中から正しさは生まれるのです。

 法と徳ザ・ダルマスの下に、あなた方はあなた方でしかなく、救いは自ら掴まなくてはなりません。正しいあり方と正しい生き方は相反するかもしれません。あなた方は、戒律の中に徳を持たなくてはいけません。

 あなた方は何を知っているのでしょう。わたしも何を知っているのでしょう。

 わたしの教えは神の言葉を伝えたものです。ただそれだけです。わたしも神の言葉をすべて理解はできていないかもしれません。しかし、心の中に留めておくことはできます。

 教えは心の中にあるのです。戒律に縛られた心の中にあるのです。

 神とわたしを信じているとしても、ただ信じるだけでは駄目です。ましてや物を以って求めることは信じることではありません。

 確かに、信じることで救われるのであれば、パンの一欠け、ワインの一滴でも救われるでしょう。しかし、それで救われるのであれば、わたしでなくてもいいでしょう。

 石やお金、数式でさえもいいでしょう。動物、無機物、あるいは、わたしの形をして同じ言葉を話す、あるいはわたしと同じことを伝える存在でもいいのです。たとえば、鉄と火を組み合わせたものでも。それ自体が考えることをしていなくても。あるいは人の再現だとしても。

 あなた方が手にしたそれは果実と水が混じり変質した飲み物です。生物の働きによる物質の変化でしかありません。それ以上でもそれ以下でもありません。特別な力を持つとすれば、あなた方の心が見せた幻でしかありません。

 あなた方はなぜ赤ワインなど持ってきたのでしょうか。それがいったい教えとどう関係があるのでしょうか。それをわたしに与えれば預言が下ると思ったのでしょうか。それとも、自分に都合のいい預言が欲しいのでしょうか。

 これを飲むことで神の言葉が聴こえるわけでもありません。救うことも、救われることもできません。わたしと同じものになることはできません。同じこともできません。

 だとしても、あなた方は、わたしの血を飲もうとするでしょう。それが人の業なのですから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

達磨酒 裏瀬・赦 @selenailur

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ