確信犯

戸賀瀬羊

1話目

「行ってきます」と彼女がバイトに行ったと同時に腰をあげる。


よし、探すぞ、アレを!


意気込むのも分かって欲しい。今日は2月14日。そして彼女からの、ときたらアレってのは何か分かると思う。


彼女とは5年目。ただ私たちは女同士でつきあってるからってことで、毎年渡す側は交代になっている。去年は私があげたから、今年はもらえる側だ、やっほーい。


彼女は何かくれる時は大抵前々から買っておいて、家のいろんな所に隠して、サプライズしてくれる。


嬉しいんだけどこう毎回だと気づかない自分が悔しくて。だから今度こそ見つけたい!彼女の裏をかきたい!


そう思って部屋の掃除ついでにいろいろ漁ることにした。


「定番なのは彼女の部屋だよね~」とベットの下とか棚の隙間とかを探したけれど、それらしきものは見当たらないどころか、綺麗に片付いている。


「前はアルバムに入ってたな~」なんてページをめくるといろいろ懐かしくて、時間が経っちゃって、おっと危ないところだったと捜査に戻る。


台所、玄関、自分の部屋、車の中、と今まで彼女がサプライズしてくれた場所を一通り探す。


ない、ない、アレがない。


ついにはトイレまで探したのに、ない。


そうこうしている内に5時間は経っていて、家はぴかぴかになっていた。


「ただいま」と帰って来た彼女を玄関で仁王立ちで迎える。


「ねぇアレは?!」

おかえりも言わない私に「はいはい」と彼女は笑って言った。


「安心して、ちゃんと買ってきたよ。ハッピーバレンタイン。多めに買ってきたから一緒食べよ?」


その手には近くの洋菓子店の紙袋。


今まで何やってたんだ私。確かにそりゃ当日買って来る場合もあるよね、今までなかっただけで。でもこの時間なんだったんだろ、また負けた気分。


いろいろ思っていると微妙な顔をしていたらしく

「あれ?チョコのことじゃなかった?もしかしてここの嫌い?」


のぞきこんでくる彼女かわいい、っていやそうじゃなくて!チョコも嫌いじゃないし、なんならそこの洋菓子店のなら大歓迎だし。でもなんか、もう!結局サプライズ成功されちゃったじゃん!


ここまで一瞬で考えた結果「好きだよありがとう!」そう言って彼女に抱きついた。


抱きしめられたまま「次は負けないからね!」と言う私を見て、彼女はにやりと笑っていた。

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確信犯 戸賀瀬羊 @togase

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