第10話 お菓子な生還。

元のサンダル姿に戻った俺は、ショコラ姫の御前へ出た。

「ナオト殿、御苦労でした」

「いえ」

「私から褒美を取らせます。タルト」

「ナオト殿、お受け取りを」

革で出来た巻物のような物を受け取った。開いてみると、謎の文字が数行に渡って、ズラリと。

「これは?」

「そなたに領地を与える」

と、ショコラ姫が言い出した。

「領地?」

「そう。それはその証文です」

俺は唖然とした。中学生の俺が領主とか。しかも、お菓子の国と来た。

「それから、もう一つ」

今度はコルネが大事そうに箱を御盆に載せて、運んで来た。

「我が父、国王陛下からアマーナ・トウ譲への御下賜品ごかしひんです」

何だか怖い気もしたが、受け取った。玉手箱のたぐいでない事を祈ろう。

「ナオト殿、召喚状はお持ちですね」

「はい、ここに」

と、ポケットから取り出した。

「あっ!」

という間にタルトさんに奪われた。

更に、ショコラ姫の手に渡った。

「また、逢いましょう。ナオト殿」

そう言うと、手にした召喚状を破られた。

「ショコラ姫……」

俺は"和菓子の甘粕"の店の中に居た。

戻って来た。入り口のカーテンは締め切られていた。外は暗い。店内の照明が着けっ放しのままで、誰も居ない。猪口さんも……

「直人。直人、帰って来たの?」

と、お袋が出て来た。

「遅いじゃない。どこ行ってたの!」

「あっ、ごめん」

「おお、直人。帰って来たか」

親父も出て来た。

「ただいま……」

「うん。遅くなるなら、電話ぐらいしなさい」

「はい」

「その箱なあに?」

と、いつの間にか、妹のあずきも出て来てた。

「見せて~!」

と、あっという間に強奪される。箱を開くと、

「おっ、パンプキン・ケーキか」

と、親父が一声を上げた。

「わあっー!」

と、あずきが歓声を上げた。

「どうしたの、これ?」

と、お袋が聞いた。

「あっ、これは……駅前近くで、軽トラで売りに来てて」

「ほう」

「もう店終いだからって、安くしてもらって」

と、俺がでまかせを言ってる途中で、あずきがつまみ食いをした。

「美味しいー!」

「あずき!」

と、お袋が咎めた。

だが、何を思ったか、親父までもが手を伸ばして、つまみ食いをした。

「うむ……ここまで美味いパンプキン・ケーキは初めてだ。これを売りに来ていた人はどんな人だった?」

「いや。若い人だったから。アルバイトじゃないかな」

「そうか」

「お兄ちゃんも食べてみなさいよ」

「もう、皆して!」

と、お袋が我先にと、つまみ食い。

「本当っ、美味しいわ!」

「でしょう?」

さて、皆が見つめる中、最後に俺がつまみ食いをした。

口に入れた瞬間、かぼちゃの甘みがふわっと。おまけに生地もふわっと。ああ、何か、とても幸せな気分だ。出来立てでもないのに、心さえ温かくしてくれる。不思議なお菓子。

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お菓子な国の基礎知識 訳/HUECO @Hueco_k

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