#いいねの数だけ恋の話をする

浅縹ろゐか

確かに恋だった17の思い出

  初めて相合傘をした日のことを思い出しましょうか。

 その日は午後からひどい土砂降りになる予報でした。傘を持たないあなたに、私は折り畳み傘を貸そうとしました。しかし、彼はそれを拒みます。一緒に傘に入ろうとしどろもどろとした口調で言うあなたに、言われた私の方が照れてしまいました。


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 春のことだったと思います。

 桜が見たいと言い疲れているあなたを公園に連れ出したのを覚えています。雲が低く立ち込める、生憎のお天気でした。桜を見て周ったり、茶屋で茶を飲んだりそれなりに満喫したのです。帰り際に楽しかったかと問うあなたに頷くと、また桜を見ようと約束してくれました。


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 交換日記をつけてみよう。そんなことを言い出したのは、どちらだったのか記憶も曖昧です。

 日々のことや、好きな音楽や、好きな本、そんなことを書いていたと思います。鍵がついているその交換日記は、秘密の共有に相応しいものでした。既に鍵を失くしてしまい、中身を確認する術はありません。


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 初めてバレンタインにチョコレートを貰った話を思い出しましょう。

 高校生のとき、下駄箱に丁寧にラッピングされたチョコレートの箱が入っていました。最初は間違いかと思いました。しかし見知った筆跡で私宛てと書かれています。同じクラスの女子から貰った、恋文付きのチョコレートでした。


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 うんと年上の方と恋仲になることがありました。

 駅で待ち合わせて、車でドライブに行き、見晴らしの良い場所にあるレストランで食事をしました。結婚を考えてお付き合いをしていきたいと言うあなたに、私は少なからず怖気づきました。私はそのとき、子供にすぎなかったのだと思います。


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 初めて、一緒に映画を観に行ったときのことを思い出しましょう。

 映画好きな私とあなたは、映画をハシゴして観ましたね。上映時間の間にパンフレットを読みながら、ああだこうだと思い思いに感想を言い合っていました。ああいった時間を持てる相手があなたで、私は幸せだと思います。


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 私が少しの期間だけ車椅子生活だったときの話です。

 部活の怪我で車椅子と松葉杖を併用して学校生活を送っていました。一階の昇降口で靴を履き替え、荷物を持とうとしたときに無言で私の荷物を持ったあなたと目が合いました。おはよう、とだけ言ったあなたは私の歩調に合わせてくれました。


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 友達に茶化されて、付き合っていないとあなたが言った現場に居合わせたことを思い出します。

 あなたの友達の気まずそうな空気に、あなたのしまったという顔もよく覚えています。そんなつもりはないのだということは、百も承知でしたが私は一人前に傷ついていたのでした。


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 友達の恋を応援するが為に、失恋するという本末転倒のようなこともしました。

 その友達は幼稚園からの幼馴染で、今でも連絡を取り合う仲です。高校時代に、友達から打ち明けられた好きな人は私の好きなあなたでした。遠くからあの人を見つめるだけで満足だった私は、恋に恋をしていたのでしょう。


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 気に入った曲をセレクトして、あなたに送るということをしていました。

 どんな気分? 何が聴きたい? ということを聞いて、それに見合う曲を見繕ってあなたに送っていました。ときには一緒に曲を聴いたりもしました。イヤホンを半分こにするとき、思ったよりあなたが近くて緊張しました。


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 どことなく浮世離れしているあなたが、いつも心配でなりませんでした。どうにかして今いる場所へ引きとめようとしましたが、それはあなたの望むことではないとふとしたときに気が付いたのです。あなたを心配して起こした行動は、いつしか自分の為の行動へと変わっていました。


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 先生、と呼ばれる人に憧れを抱いていました。博識で穏やかで、私の進むべき道を示してくれる師でした。他の女生徒にも変わらず優しく話しているのを見ては、少し残念に思っていました。少しだけ特別でありたかったのです。あなたは平等に優しく、平等に誰をも拒んでいたように思います。


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 お互いの家の事情で、さようならをしなくてはいけなかったあなたを思い出します。

 最後まであなたは謝っていましたが、あなただけが悪い筈はないのです。家のことを振り切ってあなたと共にあることを、私は選べなかったのです。あなたのことは何よりも大切です。しかし、家族も大切なのでした。


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 私のことを姉のように慕ってくれていた君を思い出します。小さいときは私より背が低く引っ込み思案だった君は、いつしか私の背を追い抜きすっかり声変わりもしていました。君が小さいときとと同じ様に私が冗談を言うと

「もう子供じゃないんで」

 と少しぶっきらぼうに、そう言いました。


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 先生、と呼ばれているあなたは優しい人だったと思います。

 日々の仕事に疲れたあなたが、喫煙室で煙草を吸っているのを見て人並みの人間なのだと安心しました。あなたは、私から見てあまりにも出来過ぎた大人でした。


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 電車に乗るときには、いつも気遣ってくれたことを思い出します。

 私は地下鉄が特に苦手でした。一緒に電車に乗り、大丈夫だと手を繋いで励ましてくれました。その手がどんなに頼りになっていたか、あなたは知らなかったでしょう。


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 さようならをしたあなたを思い出します。

 互いの将来を考えての別れでした。両親にも反対されていたお付き合いでした。しかし、あなたは私を助け出してくれました。蹲って動けない私の手を引いて、世界は広いと教えてくれました。

 私はその広い世界で、今は一人ぼっちです。

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