冬、巻頭歌


雪のごとき手と我は握手する日が来たり

たくさんの部屋があるがしんしんとしたり

君は歩みいるらむ

跫音と往く背丈など変はらずに

柑橘のはたけを歩く私らの背丈は年々低ひくうなる

もっぱらみなの足しになるようにわれらは育たねばならず

仁淀川の瓢箪さくらのたくさんの手が雲母を撫づ

永き間さうざうしかりきといらば云うべし

柑橘の海原に糠星の河をあおむありて、まろぶ

仁淀川にくれゆく春は林檎のごとく、香はほのなかなか


われは何を得しならむ

雨をあおむありて、歎かずにあらられず

やうやう柑橘の緑を濡らしていくを黙したり

うけくつらく雨を覗きしことはなし

われは何を得しならむ

しみじみと眺むる白き花のいとおしこと、慳貪なることか


言語に絶えしかしこき感情をかかえなくてはならず

大変素直な憂鬱を稗とともにはぐくみ続けて、痙攣せし思考にさいなまれたり

なんぢの上に春はとこしなえに笑まむ

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没一節 東和中波 @nakanami

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