はるさめ



雨に春が流されて

品川の駅の土を嗅ぐ

金属の香り、桜の幹の樹液の味…

黒染められた猫、猫、猫の行き交いを見る

不特定多数のことを

きんきらした眼でずっと見ている


夢を見るまま、四回散れば、何れ丈助くることになるのだろう

とろけていく桜の花弁が眼をつんざくように

美しき、無償のものに囲まれた、よりよき日々の器が割れて、反響し

品川の駅を浸していく、小舟がぷかりと浮かぶだけになる

手を振るひとに、手を降りかえし

足をふるひとに、数酌の酒をそそいで

首を振るひとに、楽になる言葉だけになったのを削って贈り

眼をつむるひとに、黙して何もなく、平時へいじ祈らぬものへと祈って

流れる秋をまたこの駅で俟つ

高く、流れている


透明になった猫、猫、猫の行き交いを見る

品川の駅にただ靴の音だけのこり…

つばめがたったの一羽、空をうら泳ぎ

雲を憾まんとして、見上げている眼をしている

成りたくて、けれども成りたくもなく、宙ぶらりんの

大人になる前の不特定多数よ

春はもうない、冬は陰をつくって足元をつつみこんである


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