晩秋・晩冬・短い


芒散りて、のらは何処でも手を振る

下り窓灯り、溶ける。初めより穏やかで風ささめく

止まる瀬や亘り亘りに成り乍ら 仰ぐ

露観れば肢体からだの生くる心地しんじとどめられる心地しんじに二つ、あえかなるほどのうしろめたさに

衣を乱して、糸の様な黴を映す

世の人に似ず、(晩冬・途中)


冬探し、庭駆け回る

節々の痛みと指先の紅葉が響いている

葉の透ける烈日を

(冬探し・途中)


鍋島の猫はひと度待てば、濁酒を醸しながら、素直に待っている。

「寒さは堪忍、商売人にはホントに」と云いながらも。腹の模様は何重にもなっているから、伺い知れぬ。蕊はすっとした剃刀のようで毛並みは斑。この蕊はどのようにして鍋島の猫は保っているのだろう乎?

(濁酒・鍋島の猫・短い)


液晶に写る画面は文字を写している。名前の隣には黒々した、単調な痛みがあった。

檸檬のような形に容れられたら、何れだけ爰地ここちがよいものなのだろう。仮令、破裂したとして、紡垂体以内で済むのだから。

「こんなにも、一文字が辛かった?」と疑問を発した。

(紡錘体・パソコン・短い)


彼は育つ処を間違えたのやも知らない。ベエルに阻まれた、その心残りは誰が破くまでもなく。

得体の不気味さを終始一貫押さえつけており、書けぬ焦躁や感じ取る事の出来ぬものから、顔を青ざめさせていた。

「ちくたく、ちくたくとタイヤが見える…」と酒瓶にのみ溢していた。

(恐怖・疲労・短い)


親愛をどのように示せば、自身が真人間たる所以を証明できるのだろう乎。

泣くだけでなれるものなれば、泣いてしまえ。

(没の一節・親愛など)


ただの一度が、おとろしく。非情にも思えた。何もかもが激しくならずに、衰えた皺を見て、未練が老醜になりゆくさまがそう見えてならないのである。

お、お、おとろしや。人に化けたる身の程知らずの化け物は老醜を感じられないのだった!

(没の一節、化け物)


おてんとうさまを見ずに、歩ける。妙に気分は清清すがすがしている。

「しゃぶり付いていて、ちっとも面白く無いのね」と女性は云った。女性の足はまるで切り取られた桃のよう。切り取った断面が太ももに見えてきて、絆創膏を貼った部分から白蜜を出しており、着物は其れをぬるりと覆っている。

(没の一節・太もも)


彼は笑うようにしていた。笑っていたら、何でも出来ていると信じ切って、病めた部位を膨れるまで放置していた。

さびしいと思えば思って、正しいと思い乍ら大きな聲で歩いている、躍っている。

道化や蝙蝠は産まれるのではない。道化や蝙蝠は成る可くしてなったのだ。

(没の一節・道化)


映画を見る。無論、独り。声が自分の中を流れていくのを、塞き止める事もなく、ただただ感じられた情感に素直になり、ありのままを胸郭に叩き込めるのだ。故に独りで見るのは好ましく思える。斯うした孤独の幸福が、ありきたりなのは分からなくもないが、是是これこれお一つ。孤独を貫いては如何か。

(一人で見る映画)



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