毒殺王 vs. チート冒険者

ちびまるフォイ

やつはチート冒険者でも最弱…!

「村長、あいつを倒せないんですか?」


「ムダじゃ。なにせやつはチート能力を使ってくるからのぅ。

 おとなしく村の美女を1ヶ月に1人差し出すしかないのじゃ」


「そんな……」


「ちなみに、次はお前じゃ」

「私ぃ!?」


かつては異国よりやってきた冒険者に救われたこの世界も、

今や力を持ったそいつによって悪政を強いられてきた。


どんな力をもってしても太刀打ちできないことは

国力の半分以上を奪われたあとで悟った事実だった。


「いやですよ! 私だって好みありますし!」


「チートでイケメン加工しておるから大丈夫じゃて」


「そういう問題じゃなく! なんとかならいんですか!?」


「奴なら……いや、やっぱり無理じゃ……」


「え? 今何言いかけたんですか!? なにかアテあるんですか!?」


村長の首根っこを締め上げて場所を聞き出した。

人里離れた家ではなく洞窟という場所にその人は住んでいるらしい。


「ごめんくださ~~い……」


扉をノックすると奥から声が聞こえた。


「だ、だだだ、だ、だだめ。はいっちゃ、だだだだだ、だだ、だめ」


「あの、あなたが毒殺王さんですか?」


「だだだ、だめ、だだめ、はい、はいっちゃ」


「あなたが人間恐怖症だとは聞いています。ですから着ぐるみを着ていますよ。

 だから大丈夫です」


「く、くくくく、くつ、くつ、くつつ……」


玄関には専用の長靴が用意してあったので履き替えた。きれい好きなのか。

中に入ると、年下の少年が指をかみながら座っていた。


「な、ななな、なななな、な、なに?」


「あなたはやたら毒に詳しい毒殺王、なんですよね?」


「お、お、お、おおおお、おお、おんなの、ひと?」


「あーーはい、まあ、女です」


毒殺王は人が怖いうえ、異性だと特にビビるらしい。

着ぐるみオブ長靴という珍妙ないでたちで話を続ける。


「この世界を牛耳ってる冒険者を毒殺してほしいんです。

 じゃないと私がいけにえとして差し出されて、なんかいろいろさせられるんです」


「か、かかか、か、かかんたたた、、かんたん、です」


「え! 本当ですか!?」


「でで、で、でも、むむ、難しい」


「どっち!?」


「ど、どどどくは、か、かんたんに、つ、つくれる、けど、けど。

 ふくっ、ふくよよう、させるのははは、むず、むず、むずっ……しぃ」


「そういう問題ですか……毒ガスは?」


「みみ、みみ」

「耳?」


「み、みつかり、やすい」


「食べ物にまぜたりするのは?」


「せ、せせせ、せ、せんにゅう、にゅう、しなくちゃ……だか、だから。

 いち、いちばん、いちばん、は、ちょくせつ、だけど」


「それが一番難しいですよ!!」


そりゃ毒をダイレクトに注入させることができれば即死かもしれないが、

それができるのならわざわざ毒を頼ってここまで来ない。


「ほ、ほうほうほう、ほうほう、は、はは、あ、ああああ、ある」


「本当ですか!?」


「う、うう、ういるす、ういるす、ののの、どくを、つつつ、つかう」


「あなた天才です!!」


握手しようと近づいた瞬間に毒殺王は後ずさって壁に頭をぶつけた。

着ぐるみ越しでも人は苦手らしい。子犬のようにぶるぶる震えている。


その後、毒殺王の指示にしたがって2匹のラットを連れてきた。


「くくく、くくくつ」


「あーーはいはい、わかりましたよ。はい、履きました」


何度か作戦会議に毒殺王の部屋を訪れているが、

毎回かならず靴を履き替えさせられるのが小さくストレス。


「言われた通り、ホーンラット2匹を連れてきましたよ。

 これをウイルスの媒介にするのなら1匹でいいんじゃないですか?」


「ににに、にに、にひき、にひき」


毒殺王は2匹のラットにウイルスをそれぞれ感染させて悪しき冒険者の本拠地へと放った。

なにせ冒険者は周囲をダンジョンで固めて魔物に防御させている。


ひとたび生身で近づこうとすれば魔物によって切り刻まれてしまう。


「こ、ここ、これで、だ、だだだ、だいじょうぶ、うぶ」


「あのラットがウイルスを運んでダンジョン周囲の魔物に感染。

 そして、回り回って冒険者へとウイルス感染する、ですね」


なんだか上手くいくか不安。

やってる作業の終わりにまるで達成感がない。


「こ、こここ、こ、これ」


「なんですか? 注射器?」


「どどどどく」


「えええ!? ちょっと変なの持たせないでくださいよ!?」


「も、もももも、もしも、もしもの、たたた、ため」



――ピピピピッ


「あ! ウイルス感染が確認されましたよ! やりましたね!

 ダンジョンの魔物に感染広がっているみたいです!」


ラットに取り付けたセンサーが感染を確認した。

あとは時間の問題。

盗撮魔法で元冒険者こと魔王は慌てていた。


「なにごとだ! ダンジョンの魔物どもが死んでいってるだと!?」


「ええ、しかし侵入者の姿は……ゴホゴホッ!

 いったいどうしてゴホゴホッ! こんな事態に……ゴホゴホッ!」


「透視(トレース)!」


魔王がチート魔法を唱えると側近の体にウイルスが仕込まれていることに気付いてしまった。


「チッ!! ウイルスを仕込みやがったか!!」


魔王はチート魔法でダンジョンにいるすべての魔物、

そして城を守っている魔物もすべて1匹残らず家族を含めて焼き尽くした。


「はぁ、はぁ……危なかったぜ。まったくウイルス毒なんて姑息なことを」


その様子を見ていた私の頭は計画失敗の文字でいっぱいになった。


「あああ! 大変です! 感染前に全部灰にされちゃいましたよ!!」


「だだだ、だだ、だ、だ、だだ、だいじょう、じょうぶ」


毒殺王は盗撮魔法で投影される魔王の部屋を指さした。

魔王の部屋にはガスがじょじょに立ち込めていた。


「ひ、ひひひ、ひにはんのうする、する、どくも、いれ、いれて、いれていた」


魔王は火が得意だったことを考慮した毒殺王は、

2匹のラットにそれぞれ別の毒を処方した、片方は熱で燃やされる時に発生する毒。


「ぐっ……なんだこのガスは……!?」


魔王が苦しみ始めて床に崩れた。


「やった! やりましたよ、毒殺王!」


「あ、あああ、あああ、あれれれれれ、れれ?」


毒殺王は先ほどまでスクリーンの中で苦しんでいた魔王が消えたのに気が付いた。


「あれ? 魔王がいませんね? どうし――」


言いかけたところで私の体は持ち上がった。

着ぐるみの頭がはずれて目に入ったのは魔王だった。


「やはりお前だったか、毒殺王。よくもこの俺にウイルスを感染させたな。

 だが、こっちには瞬間移動のチート魔法があるんだよ。

 この女が殺されたくなければワクチンを出せ。早く!!」


「あああああああ、ああああああ!!」


着ぐるみが取れて私の顔が出たことと、

魔王が部屋に来たことで毒殺王はパニックになってしまった。


「おいてめぇ! さっさとワクチンを出せ!」


「ダメです毒殺王! このまま耐えれば魔王は死にます!」


「ああああっ、ああああっ、ああああ」


毒殺王はすぐにワクチンを探し始めてしまった。

完全に我を失ってしまっている。

私がなんとかするしかない。


「わわ、わわわわ、わくち、わ、わくちん……」


毒殺王は耐火ウイルスのワクチンを魔王に渡してしまう。

注意がそちらに向いたとき、私は注射器を取り出した。


「はああ!!」


魔王に即効性の毒が入った注射器を――。


「気付かないとでも思ったか?」


「えっ」


注射器が刺さる前にチート魔法で注射器を異界へ転送してしまった。


「俺のチート魔法を使えば未来を読むことも可能だ。

 お前らがなにをしようとしても先読みできるんだよ」


「なんてチート……」


「これが神から与えられた力なんだよ!! ハハハハハハ!!!」


毒殺王から受け取った耐火ウイルス専用のワクチンをうち、

魔王は城で感染したウイルスをすっかり治してしまった。


「さて、毒もすっかり治ったことだし、今月分の年貢を収めてもらおうか」


「い、痛いっ! 放して!」


「……なんで着ぐるみに長靴履いてるんだ、お前」

「ほっとけ!」


こんなピンチな状況になっても毒殺王は最大距離まで離れて震えている。

いくら人間恐怖症つっても、覚醒するとかして助けてよ!


「じゃあな、毒殺王。この女を新しい城に持ち帰った後に

 今後の危険のためにお前はぶっ殺しておくから」


「どどど、どどどど、どどど」


「あ?」


「どどどく、どどく、どくっ、どく」


「ああ、毒ね。あんたのワクチンは本物だな。おかげですっかり治ったぜ」


「どどどどど、どどどく」


「だからしつけぇって!!」


魔王はまだ気づいていない。

毒殺王はさっきからずっと床を指さしている。


「ど、どく」


「まだ言うっ……か……あ、あれ?」


魔王はぐらついてその場に倒れて動かなくなった。


「なにが……何が起きたんですか?」


「ゆ、ゆゆゆゆ、ゆか、このへ、へへへへやのゆか。

 どく、どくけんきゅうし、しすぎ、しすぎて、

 どくの、どくのゆかに、な、なってる」


魔王は専用の長靴を履いていなかった。

瞬間移動が命取りとなったことに気付いていなかった。

死後の未来までは予測できなかったのだろう。


「毒殺王、ありがとうございます。

 というか、私の顔見てももう平気なんですね」


「ど、どどど、どくと、おな、おなじ……。

 な、ななな、なれれば、へいき、へいき」


「それじゃ、毒殺王。

 私は村のみんなにこのこと伝えてきます。もう平和になったって」


「お、おおお、おおお」


「?」


「おれ、おれれ、おれのなまえ、なまえ、ヴェレーノ、いう、いう」


毒殺王はありったけの勇気を出して自己紹介をした。

彼はがちがちと歯を鳴らせ、ひざを震わせている。


「ホントにもう。自己紹介するの、遅すぎですよ?」


「いう、いういう、の、こわかった」


私ははじめて彼と握手をした。

その後、私はとくに用もないのに彼のもとを訪れるようになった。


たぶんなにかの中毒にでもなったのだろう。

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