クリスマスカラーはブラック・アンド・イエロー

吉岡梅

キッチンにて

 クリスマスは複雑だ。


 雑誌やテレビで見るクリスマスは、綺麗なリースやオーナメントを飾り、部屋にはきらきらと光るツリーが置かれ、テーブルには生クリームたっぷりで真っ白なケーキ。さらには、なんだかコックさんの帽子を小さくしたような銀色の飾りの付いた鳥のもも肉が並んでいる。


 そして夜には素敵なクリスマス・プレゼントが待っている。ゆき君はゲームソフトを貰っていた。親戚のひろしはラジコンで動くヘリコプターを貰っていた。いくちゃんはお人形の家を貰っていた。みんな最新型でピカピカだ。


 もともと私の家には、そういう楽しげなおもちゃがとてもとても少ないのに、クリスマスごとにその差は開いていった。私にとってサンタさんは、まるであのふわふわの髭でじわじわと首を絞めるようにして、ゆっくりながい時間をかけて私に切なさを刻み込む、良い人のふりをした嫌なじじいだった。


 それでも毎年、今年こそは皆のようなプレゼントを貰えるのかもしれない、と期待を込めて、兄と一緒にプレゼント会議を開催しては手紙を書き続けた。

 だって、もし、サンタさんに兄と一緒のものを頼んでしまったら同じものが2つも揃ってしまう。それでは損だ。私達は真剣に、そしてお互いに欲しいものがかぶったときにはその所有権を争って激しい会議を続けた。だいたい私が負けてしまうのだけれども。


 いつしか兄は手紙を書く私を黙って見ているだけになったけれども、それでも私は手紙を書き続けていた。

 今年も騙されるかもしれないと解っていながら、なおもあのじじいに期待せずにはいられない自分をちょっとだけ嫌いになりながら、毎年手紙を書き続けた。


 プレゼントだけではなくクリスマスの食卓も、雑誌やテレビで見るのとはかなり違っていた。鳥のもも肉はコック帽はかぶっていないから揚げだし、クリスマスツリーには電飾どころかツリーそのものが無い。ケーキはあったけど、生クリームも苺も乗っていない。母の自作のホットケーキミックスをコップを立てたボウルに流し込んで電子レンジで焼いただけの穴の開いたパウンドケーキに、チョコレートソースがにかかっているだけのものだった。

 母曰く、「穴を開けないと真ん中が生焼けになる」という理由なんだけど、デカくて半円のドーナツっぽいは不気味で、おまけにちっとも白くなんかない。黄色だ。その上にチョコレートソースなので、黒と黄色の2色が踏み切りみたいに「注意!!」と主張してる感じだった。何に注意するんだよ。じじいの嘘にか。


 それでも結構楽しそう・大変そうに、仕事を終えて帰ってきてからすぐに支度をしている母を見てしまうと、文句など何も言えるわけが無い。

 既に申し訳ない程頑張っている母を見てしまっていたらもうサンタに期待するしかないじゃない? 外部の第三者による激的な生活環境の変化!! 私はプレゼントというよりもそんな変化に期待していたのかもしれない。サンタさん、私達を、お母さんを救ってください。そんな思いがあったのかもしれない。


 でも、そんな私が目を覚まして靴下を開いてみても、そこにあるのはなぜかクレヨンやふでばこのような文房具系のものばかりだった。そのたびに私は母に泣きつき「あのじじい、私の手紙をいい加減に読んでるんだ! 細かくよむ事なんかしないで適当でいいやなんて思ってるんだよ! ううん、きっと全然読んでなんかいないんだよ!」と訴えた。


 その時の母は、今思えば少し困ったような・いたずらっぽいような顔で、決まって「サンタさんも急がしいんでしょう。それからね、いつも言ってるけど、本人のいない前で悪口をいっちゃ駄目ですよ」と諭した。


 そう言われてもサンタに直接なんて会えるわけがない。一休さんじゃあるまいし、ねじり鉢巻をキュっと締めて、“じゃあ、まずここにサンタをつれて来てください”なんて言うわけにもいかない。

 しかも今考えると、私は直接「サンタさん」本人に文句を言っていたのだ。ずるいのは母の方だ。


 そんな事を思い出しながら、私はお店で買ってきたケーキとは別に、やっぱりホットケーキミックスのケーキを焼いている。ガスレンジではチョコレートを湯煎で溶かしてチョコレートソースを作っている。ケーキが焼けたら、チョコレートソースを、だばっとかけるのだ。黒と黄色の模様になるように。

 オーブンの中には七面鳥がスタンバイ。ちゃんとコック帽だって用意してある。ホールではないものの、いちごの乗ったショートケーキも3つ買って来てある。でも、どちらかというと、これは私にとってはだ。


 なんというか私にとって、あれはあれでとてもとても良いクリスマスだったのかもしれない。かもしれないけど、でも、やっぱり子供にとっては良くない事だったのかもしれない。まだよくわからないので、複雑だ。


 ただ、まあ、複雑なままで過ごすことも、悪くは無いじゃない。できることしかできないんだし、答えは受け手にだしてもらいましょ。ね、お母さん。


 そんな無責任な事を考えて、私はテーブルへとケーキを運ぶ。ご期待に沿えるかどうかわからない押し入れに隠したプレゼントを思い浮かべて、いしししし、と笑ったりしている。さあ、ドアを開けて始めましょう。今年だけの、私たちだけの、いつかふと思い出される程度にはメリーなクリスマスを。

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クリスマスカラーはブラック・アンド・イエロー 吉岡梅 @uomasa

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